カルダモン

イヌとイタリア人、お断り!/犬とイタリア人お断りのカルダモンのレビュー・感想・評価

4.1
監督のアラン・ウゲット自身がおばあちゃんの記憶と対話する。おばあちゃんの記憶は監督の手によってミニチュアとなって具現化され、ストップモーションで命を吹き込まれる。ミニチュアのおばあちゃんがアランに語りかける。自分のルーツであるウゲット族について。

ファシズム政権のイタリアから亡命し、豊かな暮らしを求めて移住を決めたウゲット一族はアルプス山脈を抜けてフランスへ。しかしその道程は決して楽なものではなく、やっとの思いで辿り着いたフランスも移民に対する扱いは夢に描いていた暮らしとは程遠い。カフェに掲げられた『犬とイタリア人お断り』の札。どういう意味?と訊ねる子供に対して「犬がイタリア人に噛みつくから入らない方がいいという意味だ」と教えながら「でもイタリア人は犬が大好きだ」と添える。子供らが犬を嫌わぬように、フランス人に敵対することがないようにと選んだ言葉だろうか。

最初から住みやすい土地なんてない。視線を避けることもできない。土地と人が馴染むには時間がかかる。でも辛いことも思考を転換させたり角度を変えて見れば、自分ごとから一旦距離を取ることができる。
このストップモーションアニメは過酷な時代を描いてはいるけれど、どこかしら明るいムードに包まれていて視線が常にポジティブに向かっているのを感じる。日々の小さなものごとを拾い上げる視点が小さなミニチュアから直に伝わってくるかのようで温かかった。

アニメーションを構成する道具や素材が楽しい。時折、監督自身の手が介入して助けたりするのも面白い。指先から作り上げる世界と物語によってファンタジーになる。ファンタジーは現実の写し鏡。直接的ではない記憶と記録の語りは、ドキュメンタリーでは伝わらない距離まで照らせる気がした。