木蘭

シモーヌ フランスに最も愛された政治家の木蘭のレビュー・感想・評価

3.8
 共和国の良心たる偉大な女性官僚にして政治家シモーヌ・ヴェイユの御一代記。

 自叙伝をベースに、彼女の人生の幼少期/16歳~30代/40代以降を3人の女優が演じ分ける。
 時系列をバラバラにしたのは、2時間30分という比較的長尺の作品が単調にならない様にする為だろうが、例えその工夫がなくとも、その余りにも波乱に富んだ人生が故に飽きさせないし、余りにも重い彼女の言葉の羅列に心を掴まれる。

 とはいえ、逆に言えば彼女の一生を描くには2時間30分は短過ぎる。
 一つのシークエンスだけでも一本の映画になる位のエピソードだし、その上、挙げるべき人生の出来事の数は枚挙に暇がない。
 恐らく彼女の人生でもハイライトになる中絶合法化(ヴェイユ法)をめぐる闘争ですら、オープニングの掴みだったのには驚愕した。

 あくまでも彼女の人生についての物語なので、家族の愛とホロコーストの経験を抱えたシモーヌが、その後の人生をどう生き、戦ったかがテーマになっている。
 それ故に、主題に関わる事件以外は、表面をさらうだけで終わってしまう。
 フランスを揺るがした植民地や海外県の独立戦争をめぐる事件や五月革命ですら、チラッとしか出て来ないので、フランスの近現代史を全く知らないと理解しづらいかも知れない。

 ただ批判しておきたいが・・・
イスラエルに移住してキブツに参加した末息子を尋ねるシーンがあるのだが、若者のコミューンとして理想的に描かれるそこに、在るはずのパレスティナ問題の影はないし・・・
彼女がEU議会の議長としてユーゴスラビア紛争の民族浄化を激しく糾弾するシーンはあるが、その後のNATOによるセルビア空爆には触れられない・・・
彼女と家族や、彼女の理想たるEUは、その瞬間、加害者側にいたのにだ。そう思っていないのかも知れないが。

 映画作品としても、悪くはないけども・・・尺の都合で掘り下げが足りなかったり、演出が垢抜けなかったり、どこか教科書的だったり、収容所のシーンも本当にエグい所はぼかしているな・・・等と、気になる点がある事は否め無い。

 そんな批判すべき点があるにもかかわらず、エピソードと台詞の羅列からだけでも伝わってくる凄みがあって、逆説的にいかにシモーヌ・ヴェイユという人物が偉大であったかの証明だったりするのだ。
木蘭

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