ちゃんゆい

それでも私は生きていくのちゃんゆいのレビュー・感想・評価

それでも私は生きていく(2022年製作の映画)
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母、娘。ひとりの女性のなかで、その二面は明確な線引きがなされているわけではない。場所、時間で区切られることのないその役割は、ゆるやかに切り替えられながら日常を編んでいく。
親の介護をするひとが、一日中つらい顔をしているわけではない。恋する人間が四六時中幸せに酔いしれているわけではない。
人生は、幸せな一瞬や、先の見えない苦しみの粒たちが絡み合って進んでゆく。
主人公の女性の、常に何かを抱えたような表情は、表面的にはほとんど変化しない。しかし、状況や時に溢れる涙によって、細かな心情変化を感じ取ることができる。
パリの白い壁や新緑の葉たちの変化しない美しさが、人間たちの諸行無常な心境をより引き立てる。

「病院にいるよりも、本を見ている方が父を感じることができる」
選ばれてきた本は、本人を浮かび上がらせる輪郭。
その表現が素敵だった。確かにそうだと思った。

本作も、主人公は限りなく透明で、娘、父、家族、恋人、彼女をとりまく人々の群像によって本人の輪郭が浮かび上がってきているのかもしれない。