子育て、介護、病。飾ることも過度に煽り立てることもなく身近な問題に向き合っていくところが良い。監督の自伝的作品ということですが、作品を通して湿っぽくなりすぎない穏やかな風が通っているところも素晴らしいと思います。
主人公を演じるのはレア・セドゥ。抱え切れない問題と自分の人生を生きることの間で葛藤する女性をナチュラルに体現しているし、抑えた演技のなかに確かに心掴まれる瞬間がいくつもあって心底感動しました。
日常の機微をとても上手に掬い取る映画です。印象的だったのは主人公が施設に入ることとなった父のアパートを整理する場面。父の愛蔵した書物を眺めるうちに、その1冊1冊が父の手によって選ばれた父の人生そのものであることに気づき手放せなくなるところは、実体験でないと出せない生きた感覚が溢れていて涙が込み上げてきました。
遠い国のどこかに彼女が生きているんだと思うと少し気が楽になるような、人生に寄り添ってくれる温かい作品です。