木蘭

不屈の木蘭のレビュー・感想・評価

不屈(2018年製作の映画)
3.5
 1989年ソ連ウズベク・カラカルパク自治共和国を舞台に、アフガン帰りの元大尉で体育教師として暮らす主人公の終活を描く。

 余命幾ばくも無い人生の後始末を群像劇風に描いているが、特にドラマティックな展開があるわけでも無く、淡々と描かれる物語を飽きずに見ていられるのは、映し出される・・・國村隼をしぼませた様な主人公のしかめっ面と、白い光で映し出されるウズベクの地方都市や、木綿産業で干上がってしまったアラル海の荒涼たる砂漠の景色が味わい深いから。

 アフガン帰還兵の物語と言う事で、戦争映画的な部分を期待すると余り答えて貰えないかも。
 アフガンのシーンや軍人達は出てくるが、今一つソ連軍には見えないし、衣装等の考証も細かくは無い。
 そもそも、主人公や戦友たちも軍人には見えないし。

 それよりも一寸した生活の描写とか演出が興味深い。
 ウォッカの飲み方とか、賄賂の渡し方とか、職業軍人の寡婦は軍の官舎に住めたんだ・・・とか。
 それと、主人公はウズベク語を普段話しているのに、飼い犬への命令はロシア語なんだな・・・とか、アフガンに従軍している軍人は口ひげを生やすイメージなんだな・・・とか。

 知らないと誤解しそうなシークエンスがあって、母親を顧みなかった父親を忌み嫌っている息子に、ある日、主人公が「お前は思い違いをしている。」と否定すると「母さんが死んでも6ヶ月も気が付かなかったじゃないか!」となじるのに対して・・・「あれは地質学者と出張に行っていて・・・。」と戸惑いながら答えるのだが・・・それって、アフガニスタンに派兵されていたって事・・・。
 ソ連時代はアフガンに派遣されている事は時に家族にも秘密で、特に主人公の所属した部隊はウズベク人の比率がやけに多いので、1980年という時期からして、中央アジア人を中心に編成した派兵部隊の可能性が高く、機密性がより高かった為に守秘義務が続いていたんじゃないだろうか。
 つまり息子は無論、主人公の周りの人は、彼がアフガンにいた事を知らないのだ。

 そんな事情を知らないとはいえ・・・息子さん、外に愛人囲って隠し子がいるのは、どういう了見だ?と思いましたけど。

 地味だけど味わい深い佳作でした。
木蘭

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