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ゴジラ-1.0のstanleyk2001のレビュー・感想・評価

ゴジラ-1.0(2023年製作の映画)
4.8
『ゴジラ-1.0』
GODZILLA MINUS ONE
2023

TOHOシネマズ日比谷・公開初日10時の回は満席。上映終了後には拍手が起きた。

とても充実した娯楽映画。観に行こうかどうしようか検討中の人はぜひお勧め。観に行って損がない映画です。

描かれる時代は1945年から1947年。焼け跡になった東京にゴジラが上陸して空襲で焼け残った銀座を瓦礫の街にする。

主人公・敷島 浩一(神木隆之介)がゴジラと出会うのは1945年。敷島は零戦で特攻を命じられるがエンジン不調を装い大戸島の整備場に着陸する。

そこにゴジラが現れる。整備兵・橘宗作(青木崇高)に零戦の20mm機銃で攻撃してくれと言われるが敷島は恐怖のため固まってしまい気絶する。

目を覚ましたらゴジラに殺された整備兵の遺体が浜辺に並べられている。「お前があの時撃たなかったからだ」と橘がなじる。

この映画は卑怯者である主人公が自分に落とし前をつける映画である。

卑怯者が主人公の物語ということでジョーゼフ・コンラッドの『ロード・ジム』を思い出した。ピーター・オトゥール主演で映画化もされている。

ジムは船員。沈没事故が起きた時に乗客を見捨てて自分だけ逃げた。どこに逃げても卑怯者という評判がついて回る。自分を知らないアジアの奥地に居場所を見つけ「ジムの旦那」と現地民から慕われる。そこに悪辣な船長が現れ、、、

一敗地に塗れた人間が立ち上がり失われた自尊心を取り戻す。

冒険小説の王道だ。そして敷島と一緒に立ち上がっていくのは敗戦した日本もだ。

復員した敷島の家は焼け両親は空襲で亡くなっている。敷島は闇市で知り合った典子(浜辺美波)と孤児の明子と廃材を集めたバラックで暮らし始める。復員局が募集した機雷掃海の仕事についた敷島は新築の小さな家を建てる。

焼け跡から少しずつ立ち上がって行く様子が演技だけでなく衣装やセットでも丁寧に描かれている。

焼け跡のセットの密度が凄くて圧倒される。そしてそこに立つ安藤サクラの実在感が凄い。昭和の女優がそこに居た。

俳優やエキストラの顔つきも昭和だ。

ああ、こんな焼け跡から親や祖父母の世代は立ち上がったんだなと涙が出てきた。

1954年の『ゴジラ』を倒したオキシジェンデストロイヤーは核兵器のメタファーだった。1984年『ゴジラ』のスーパーXはかっての東宝怪獣映画の超兵器の系譜を継ぐものだがどういう仕組みで宙に浮いてるの?という疑問があってあまりにも現実離れしていてとても白けてしまった。

2016年の『シン・ゴジラ』の場合は自衛隊やアメリカ軍の現用兵器と無人在来線爆弾やコンクリートポンプ車など実在する兵器が登場して「俺たちでもなんとかできるかもしれない」という勇気をもらった。

そして『ゴジラ-1.0』でゴジラを倒すために使われるものも架空の超兵器ではなく実在するものばかりでとても良かった。

人間が知恵を集めて力を合わせてゴジラを倒す。超兵器ではワクワクしないのだ。

『ゴジラ-1.0』は米ソが対立しているためアメリカ軍はゴジラを倒す手助けをしてくれない。日本政府も手出しをしないという設定になっている。ゴジラ映画には珍しく政府も自衛隊も政治家も出てこない。

博士と艇長と特攻帰りや元海軍たち民間人が力を合わせる。作戦の説明会で作戦内容の不確実性から退出する人がいるのが良かった。国家の危機でも家族のために危険は犯せないと考えて参加しない、そういう選択をする人もいていい。全体主義ではないから。それが民主主義だから。有無をいわせず片道分の燃料で特攻させる軍隊とは違うというのがはっきり描かれていて良い。

誰かがやらなきゃいけないからなと参加する人たちの心意気も気持ちが良い。

そして最後の山田裕貴の登場は『ダンケルク』を思い出した。あの街のおじさん達の心意気を思い出した。

情報を隠蔽する政府を当てにせず市民が力を合わせて戦う。理想的過ぎるかもしれないけどやっぱり素敵な姿だ。

観た後でとても元気がもらえた。前を向いて上を向いて歩いて行こう。そんな気持ちになった。

追記
・神木隆之介と浜辺美波は『屍人荘の殺人』で共演している。オタク大学生とツンデレ美少女という役だったが二人とも成長したなぁと感慨深い。神木隆之介は後半高倉健に見えてきた。
・海戦場面のCGが素晴らしい。艦船も海も本物にしか見えない。
・ゴジラはひたすら凶暴で怖い。それが本当のゴジラだ。核兵器から生まれたゴジラに私達はひれ伏して過ちを詫びて怒りを鎮める。祟り神に対する作法ですからね。
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