まっつん

ゴジラ-1.0のまっつんのレビュー・感想・評価

ゴジラ-1.0(2023年製作の映画)
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山崎貴監督なりの『ジョーズ』の変奏として興味深く拝見したところ。

個人的に『ジョーズ』の白眉と思うのは、鮫との決戦前夜、船内でブロディとクイント、フーパーの三者が自身の傷跡を見せながらその由来を語りあうシーン。一見すると他愛のないシーンに見えるが、同作に於ける鮫に仮託された妄念が詳らかとなる、なかなか重要なシーンだ。

クイントはかつて原爆の材料を運送したインディアナポリス号に乗船しており、同艦はフィリピン沖で魚雷により轟沈した。命からがら海へと飛び込んだ乗船員たちは次なる地獄を目の当たりにする。その海域には鮫が跋扈しており、殆どの者はその餌食となって死んでいった。いわゆる「インディアナポリス号の悲劇」だ。クイントはこの生き残りであり、彼の戦争へのオブセッションと、終生鮫への復讐に闘志を燃やしていることがさりげなく明かされる。

『ゴジラ −1.0』は、その生い立ちからしてより戦争とのイメージの結びつきが強いゴジラにこの妄念を仮託し、そしてどう撃ち破るかに焦点が当てられている。これを『ジョーズ』の精神的続編と呼ばずして、なんと言えようか。粗は多々あり、やや苦笑こそすれど、見事な翻案であった。
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