柴田龍

ゴジラ-1.0の柴田龍のレビュー・感想・評価

ゴジラ-1.0(2023年製作の映画)
3.6
ゴジラ映画だ。大きく、強く、怖い。
ついでに付け加えると、雄々しく、猛々しく、神々しく。

そして、助演だ。

この映画のゴジラは、助演だ。
主役は神木隆之介が演じる敷島浩一。
その心情と暮らしぶりは、戦後を生きる苦しさにあふれ、生を選んだはずがののしられ、復興さなかにおとずれた愛情に、心の弱さゆえに背中を向け、自身をないがしろにするみじめさにいろどられている。イライラし通しで、ゴジラが姿を見せると爽快感を覚えるほどだ。

VFXのトップリーダー、山﨑貴監督が率いる白組が、丁寧に編み出すワンフレームごとの緻密な画作りは、海を自在にゆくゴジラを改めて両生類なのだと認識させ、破壊された戦艦の屑鉄感は、ジオラマや模型といったSFXを過去に追いやってしまったかのように思わせる。

だが、時代背景と心理描写、戦後の風景が伝えてくる、骨太の人間性がどっぷりとひたらせてくる展開が、話題の中心であるはずのゴジラを、主役にさせない。

比較の容易なところで、シン・ゴジラはゴジラが主役だ。人類の制御の範囲外の存在で、次々と形態を変化させ、本能に知性を匂わせる凶悪感に、登場人物たちはただもう右往左往するばかり。長谷川博己演じる矢口蘭堂の作戦が始まった時の付け焼き刃感と、それが決まった瞬間のとてつもないラッキー感。まぐれでなんとか抑え込んだ! さてこれからどうしよう。で、終わったわけなので、どこをどう切り取ってもシンはゴジラが主役だ。

映像文法や人称視点を変化させれば、同じ物語でも新たな視点を見出せ、もっとこの-1.0ゴジラが活躍するようにもできたはず。だがなぜそうしなかったのか。
それは作品を観た人で確かめるのが一番と考える。

この令和時代に投げかけるものは。
戦後の復興に立ち塞がりながらも、団結と希望の踏み台となったゴジラは、観客に主演が伝えるテーマやメッセージを、これでもかと後押ししてくる。
命がかかった場面でも希薄に繋がり、人のためを思いながら遠ざかることを是とするような現代にあっても、この作品の人物が表す痛烈なアンチテーゼは、深い感情を掘りおこし、スクリーンから喜びを得られるだろう。

今作は偉大なる助演。
時代を超え、創作者を得て何度も蘇るゴジラ。その姿は人に何を伝えるのか。

明確な敵が存在する人生を送る人におすすめ。決めた方向へ進みたい自分の気持ちに嘘をついて暮らしているような方にも。
柴田龍

柴田龍