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ゴジラ-1.0のsaekoのレビュー・感想・評価

ゴジラ-1.0(2023年製作の映画)
2.8
理不尽に立ち向かうために人々が一致団結するさまを描いた理想主義的な映画です。
シンゴジラにあったようなリアリティやエンタメ要素は薄く、美談的な展開に終始しています。

理由もなく突然現れ、無惨に街を破壊するゴジラは、人間からしたら自然災害のようなもの。恐怖に慄きながらも、愛する者を守るべくゴジラに立ち向かうという構図は、まあ普遍的で納得できるものではあるのですが、それ以上の捻りが特にない。そんなにみんな突然えいえいおーと鬨の声をあげられますかね…?

戦後という設定も絶妙に相性が悪かったかもしれない。登場人物の多くは、出兵したり、空襲で家族を失ったり、戦争の惨さを実感している人々のはずなのですが、そんな人たちが「誰かが貧乏くじ引かなきゃいけないだろ!」というヒロイズムを素直に発揮できるのか?という腑に落ちなさがあります。

「銃後の者を守るために戦う」というのは尊い思想ですが、戦争に理不尽に巻き込まれた人が戦いを正当化したり、恐怖心を紛らわしたりするために考えるもので、本来はそもそも戦いそのものが存在しないほうがよく、称揚されるべきものではないと思います。そう考えると、これを美談として描くのはどうなんだろうか…という違和感を感じざるをえない。

この映画を観ながら頭によぎったのは進撃の巨人の印象的なシーンです。巨人と戦う調査兵団の隊長が、身を奮い立たせて勇ましく戦いに挑んだ瞬間巨人に食われ、泣き叫ぶシーンがあります。また世界を守るために調査兵団になりたいと理想を掲げた若者が、巨人に特攻して死を目の前にしたとき、「自分の死がこんなに無意味なものだとは」と絶望するシーンがあります。進撃の巨人のすごさは壮大なフィクションでありながら究極のリアリズムを追求しているところなのですが、戦争というもののリアリティはこういう人間の脆さや、現実の無情さにあるのではないかと思います。

本作は戦争を題材にしながら、身を犠牲にして国を守るために戦う人の勇気を褒め称えるに止まっており、あまりに理想主義的に感じました。きっと心根のいい人が考えた、「こうあってほしい」というあり方なのかなと感じました。
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