珍念

ゴジラ-1.0の珍念のレビュー・感想・評価

ゴジラ-1.0(2023年製作の映画)
4.0
「俺にとって戦争は終わっていない」というセリフ。これはまもなく戦後1世紀を迎えようとする我々にはおおよそ推し量りにくい感情だが、あの戦争のとき、敷島と同じような身の上になった人はたくさんいたのだ。仲間が戦地におもむいっていったのに、自分は行けなかった男たち。空襲で、原爆で、大勢が焼け死んだのに自分は生き残ってしまった人々。敷島と同じように、その状況に対して彼らは「なにもできなかった」。
思えば、死んだ私の祖母や祖父も戦争のことについては多くを語らなかった。悔恨とも懺悔とも言えない複雑な気持ちを抱えたまま、彼らはそれでも生きたいという気持で生き延び、今のこの社会を築いてきたのかもしれない。

本作はアカデミー賞特殊効果部門で受賞作品だが、演技や演出を含め総合的に素晴らしい作品と思う。
昨今流行りのてんこ盛り超大作でもなく、監督の私小説的作品でもなく、エンターテイメントとドラマ表現としての映画に真摯に向き合った秀作であるように感じた。

道具立てや衣装、メイクなど正確な時代考証かどうかはわからないが、非常に昭和的に感じられるように作られている。老若男女登場人物の顔色が浅黒かったり、俳優たちの演技も、昭和の日本映画を彷彿とさせるところがあって良い。
特に近所のおばさん役の安藤サクラの演技がなんとも人情味があって味わい深い。ゴジラ戦から帰還した敷島に電報を渡すシーンが素晴らしい。手しか映されていないが、電報を渡したあとに何度も敷島の体を叩くところ、「あんた良かったねえ、、、何一人で死のうとしてんのよ、ばか」というようなセリフにはない様々な感情が見え隠れする名演である。
そして、浜辺美波演じる典子。ラストシーン病室での菩薩のような姿、「浩一さんの戦争は終わりましたか」というくだりは、あたかも小津映画か1950年代の邦画を見ているかのような錯覚を覚えた。モノクロ版が出る所以であろう。
珍念

珍念