せいか

ゴジラ-1.0のせいかのネタバレレビュー・内容・結末

ゴジラ-1.0(2023年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

05/15、Amazonビデオにてサブスク視聴。
正面から見たゴジラはムチムチしている。

賞も取ったり、その前から話題作ではあったりでずいぶんもてはやされていたけど、この監督の作品がそこまで持ち上げられてることが気になったので観てみた。
そもそも期待値は持たないようにしていたので最初からずっと虚無になって観ていたけれど、まさしくその想像通りでもあり、ある意味想像以上でもあるものをひたすら食んでいた。あんまりこういう比較の仕方したくないけど、シンゴジってすごいよなーとぼんやり思っていた。

本作がやりたいことは一言でまとめれば、作中でも出てきたように、「俺の戦争が終わってないんです」に尽きるものとなっている。
物語は日本が決定的な敗戦をいよいよ飲み込むしかなくなる終戦直前〜戦後直後を時代設定として定めている。主人公は特攻隊員として戦闘機に乗り込んでいたが、不具合だと嘘の理由をつけて島に着陸し、そこでメンテナンスを受けていたのだが、そこでゴジラと遭遇してしまう。彼はそこでも戦うことを放棄して生き延びて戦後の荒廃した日本に帰るが、自分は逃げて助かったことに負い目を感じ続けながら復興していこうとする世の中で生きていく。そして生活も軌道に乗り始めたかに思えたとき、ゴジラが再び現れ、今度は東京を壊滅状態に導くのだった。戦後の混迷期にあって外国の力は一切頼ることもできず、政府の力も弱い。そこで民間として元軍人たちが中心となって立ち上がり、ゴジラを倒そうと一致団結するのであった!みたいな話。これにやたらと目に付くうっすいドラマ要素が過分に盛り込まれている。

本作、まず冒頭からしてそこを噛みしめることになるけれど、そもそもゴジラという存在を作品上でどうしたいのかが至極意味不明なものとなっている。この点で既に無印ゴジラが持っていたものとか、シンゴジがそのうえで新たに付与できていた意味合いなんかも本作にはほぼないものとなっている。前者は戦後の日本というものを、後者は現代の日本というものをシニカルさも含めてゴジラを通して表現していたと理解しているのだけれど、本作はそういう立ち位置もひどく曖昧である(言ってしまえばそれら以外のゴジラシリーズはだいぶライトな作品が並ぶけれど、本作、そういう怪獣映画に踏み切ってるわけでもなく、中途半端にろくに付与できもしねえ意味をもたせようとしてるのが一番ムカついてくるというか……)。
本作では主人公なり日本の人たちなり日本なりを蹂躙するゴジラは巨悪として屹立し、この日本の領土を脅かす仇敵を日本人たちが今度こそ美しく一致団結して打ち倒すみたいな、なんかそういう気持ちの悪いだけの話になっていた。俺の戦争は終わってないというのも、結局ただの、戦中の日本の愚策的な対応によって味わうことになった負け戦をやり直したい!みたいなものでしかなかったと思う。戦争そのものやその前後に対する反省は口では言っててもそこには実としてはなくて、反省してるとしたらああして負けたということだけだみたいな、なんかそういうものをひしひしと感じた(国は戦争で酷い手も打ったし今にしても駄目だったから民間でやろう!っていうので元軍人たちが意気揚々と集まってくるくだりとか、だいぶ観ててしんどいゾイ)。この点でもうだいぶ本作があえて何がしたいのか意味が分からなかった。
やってることも結局は形を変えた戦争賛美というか、当時の日本というものが抱えてしまっていた(そしてまあ今もあるんだろう)精神性を表向き美しく飾り直したもので、マジで何考えてシナリオを作ったのかと2時間たっぷり思わされるものだった。戦争をやり直して取り敢えずの大団円を演じてるだけの内容なのだよなあ。戦争は終わってないってそういうことじゃないやろという気持ちになりましたというか、大戦期の戦争の関する、しかもちょっとズレた感じがあるタイプのオタクの妄言をたっぷり観させられてるような感じと言えるというか。

最終的にゴジラは完全には死んでおらずみたいな幕引きはゴジラモノのお約束みたいなものだし、どうしようもない脅威となる何かはけっして完全にはなくならないものという暗喩みたいなものだとも思うのでそれはともかく、ゴジラがやっと復興の兆しが見えてきた東京を再び壊滅させたときに死んだと思われていたヒロインが実は生きていて、ラスト、主人公と涙の再会を果たすも、その首の傷は何やら不穏に蠢いていて……とかも、不安の種は蒔かれて蔓延するものであるとか、もっと直截にそもそもゴジラがそういうものと関わる存在でもあるし、放射能被害のような蝕み続ける毒のようなものを表現してるのかもとも思うけれど(たぶん)、この辺も本作のシナリオだとあえてそれをやる意味がまるで分からない。たまたまヒロインだけクローズアップされただけで、日本の少なくない人々にも同じ種は撒かれていて、いつかはそれが花開くことになる、にほんの未来は明るいわけでもないよ!というのならまだ分かるけれど、そえじゃないならあれは何のつもりなのだである。

本作のドラマ部分なんかはとにかくずっと酷い。これがええんやろ的なものをツギハギしている感じで、キャラクターに魅力はなく、説得力もない。くさいセリフも山ほど出てくる。劇場で見てたら泡も噴くに噴けないので俺も終盤のゴジラのようにエネルギーを外に出せなくて自壊みたいなことになってたのではないかと思われる。家で観ててよかった。とにかく人間は山ほど出てくるしやたらドラマパート挟むけどろくに深堀りはしない。主人公が乗らないほうの船の描写はいかなる人間関係があって然りでも一切描かないとかね……。
これが描いてるのは人間讃歌でもないし、戦後の日本の人々が必死に生きて立ち直ろうとする(あるいはそれができないにしろ)といった様子ではない。時代設定を戦後直後にわざわざしてるのに、そこで生きていることを真面目に描いていないというか、その必死さがうわべもいいところで何らの深刻さもない。描写がほんとにいちいち軽くて、画面から伝わってくるのも奇妙な清潔感である。ヒロインなんかには、あえて、今日の飯のために身売りをしてでも生きていく女性を遠回しに馬鹿にさせたりもする。なかなか観ていてヘドが出る意味不明ぶりであった。なんでわざわざこの時代設定にしたの?って感じである。繰り返すように、戦争を美しくやり直したかっただけだよね?ってことなのだがー。
本作においてはそういう大仰な設定にしてる割にはゴジラにやっと復興してきたところだろう東京を破壊させることにも意味が見いだせない。壊したかったというだけなら、さよかというところで終えられるのだが。

あと、いくら直接関わることは避けるにしろ、もう少しアメリカ側の対応とか描いてもいいと思うのだけれど。てんやわんやどころの騒ぎじゃないと思うのだけれど、まさかのセリフ上で説明される以外何らの描写もないという。
てかさ、この時代設定ならむしろゴジラという存在が活躍するのってむしろ日本以外の場所のほうが輝ける場所山ほどあるやろと思うのだ。意味分かんないのだ。

グラフィック面に関してもゴジラのもたらす絶望感みたいなのはやはりシナリオの問題で霞のごとく吹き飛んでいたと思う。何も考えずにどういう設定かとかも何もかも置き去りにできた上で暴れてるところの映像だけ観るならどうかというところである。

最後に、本作ではゴジラを倒すのにワダツミ作戦という作戦が取られて、要は深海にゴジラをものすごい勢いで沈めたり、ものすごい勢いで上げたりして水圧でどうにかしてみよう(深海で生きられるにしてもさすがに耐えられまい)!ということをするのだけれど、ここで使われるフロンガスなりバルーンなりはその水圧に実際耐えられるものなのか?とシンプルに疑問に思ったけど、たぶん、そこはお話として見積もる部分なのだろうめいびー。

役者の人たちには美味しいものでも食べてよく寝てほしいなとしみじみ思った。間違いなく演出、脚本、監督の問題要素がデカすぎたと思うよ……。
せいか

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