せいか

ドクター・モローの島のせいかのネタバレレビュー・内容・結末

ドクター・モローの島(1977年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

12/17、GEOにてDVDをレンタルして視聴。字幕版。
原作は既読済み。別に好きな作品というわけでもないが、『TÄR』を観るにあたって映像化作品版を観たほうがよさそうな気配を感じたので一応観ておくことにした。ちなみにそっちに関係するっぽいのはもう一つの映画作品の方で、そっちも近々観る。こっちはついでなんで見比べるつもりで観ることにした。(自分用メモだが、本映画の撮影地は西インド諸島にあるアメリカ領ヴァージン諸島である。)

本作の始まりは原作と異なり、たまたま拾われた船にお荷物とばかりに積み荷と一緒に謎の島の謎の人々に降ろされたというものではなくなり、主人公はボートでたまたまここに漂流したという話になっている。
というか、ストーリーは大きく改変されていて、モロー博士が美しい女と共に暮らしていたり、メインとなる屋敷も小説の印象を覆す程度にはだいぶしっかりした屋敷になっている。原作にはいないヒロインができたことでロマンス要素が付け加えられている。モンゴメリーとモローの関係やキャラ設定も改変あり。原作だとモローはだいぶファンキーな追放学者って感じだったし、モンゴメリーはもっと繊細で追い詰められている感じがしたが、むしろこっちのほうが図太そうなところがある。召使となる獣人間の役回りもそんなに物語に印象深いところまでは扱われていない。
動物の遺伝子を弄って人間みたいになるようにしよう!というのはしている。実際の猛獣と人間を絡ませてたり(格闘シーンさえ撮影しているので観てて不安を抱く)、撮影大変だったろうな……とは思う。見せ場のためか、より獣性とその支配を分かりやすく強調するためか、わざわざそうせんでもええがなという改変がある。
モローの狂気が、それできみの理論としては何であえてそれしてんの?という、彼本人の説得力がなくないので、このひとこの島で何したいんやみたいになっていたのが残念だった。自分がやってることで相克するならそこ深堀りしても良かったと思うけど、あくまで、何がしたいの?程度だった。主人公の遺伝子も変えたれ展開とかね(そういうのはなかったはず)。
展開がだいぶ変わってるので、原作では主人公辺りが体験する羽目になる終盤の獣人間との泥仕合もモローがするという変更がある。創造主を集団化した獣人間たち自身が殺すことによる混乱なんかはだいぶ皮肉めいたものがある。獣人間たちに逆に「苦しみの家」と形容させてきた場所に押し込められようとするのとかもそうだ。このへんの皮肉が効いてはいる。効いてはいるけど、直後の実際の動物と獣人間との混戦状態描写でこれまた話が濁されている。

狭い島でを舞台に人間の傲慢さを描き、また、転じてこの異常空間によって人間社会の醜さを描くというのをしているとは言い難い。あくまで、原作のストーリーラインを変えはしつつ従いつつ描いてるというか。それで十分ではあるんでしょうが。
この島内の秩序の崩壊とかもなんか原作以上にとにかくモローが何したいのか分からんだけになっている。混沌を描きたかったのかもしれないが。
原作の、モローが死ぬからこそ獣人間たちの野生がいよいよ蔓延して目覚めて危機的状態になるというのとか、ある獣人間が持つ狡賢さだとか、そこが大事なのではというのが無茶苦茶。
傲り、創造主ぶった科学の手によって主人公の人間性が崩壊させられそうになる、そしてそれに苦しむというものに象徴される要素は好きだけど、それと相対するモローという人間がもうちょっとどうにかならなかったのかというか。たぶん、この方向性で変えるにしても、それならもっとテコ入れすべきだったんだろうな。
モローが築いた楽園が混沌と化し、主人公はそこを後にするという切迫感もこの映画からはそのオワリや感が薄い。原作では人間社会に戻った主人公がその世界の醜さに辟易するというアイロニーもここにはなく、彼はなんか冒頭のように漂流しているうちにもとに戻り、そして、島でしか生きられないと言っていたヒロインは獣の本性(ネコ科と思われる)のきざはしを見せながら、救いの船に手を振る。
ただ、ラストのヒロインについてはそれがはっきりするのはお蔵入りしたといわれるエンディング版のみで、私が観たDVDでは美しい顔のままただなにか言いたげに泣いている彼女のカットになる。とはいえ、作中を通して表現されてきたことを通してみれば、卵12個分の値段で買ったとか、ネコ科の獣を引き連れてるとか、イエネコのように可愛がられているとか、島の中にしか自分の生きられる場所はないとやけにこだわっていた点だとか、ラストもボートの中で不自然に顔を伏せて主人公に顔を見せまいとしていたのだとか、分かりやすくバッドエンドにするのをやめただけで、ヒロインがどういう存在かというのははっきりしていると思う。たぶん、バッドエンドだとクレームが来たので作り直して一見わかりにくくしただけだろう。


画面的なグロテスクさが売りなのだろうけど、シナリオ面、もっと踏み込んでくれたらなあと思う作品だった。改変箇所もいいと思うけど、それする上での深みに達しきれていない。
19世紀イギリスが抱えた、そして1970年代後半のアメリカが抱えた、自分たちの道程との軋轢の話であるはずなのに、そこが中途半端過ぎる。かといって、描けてないよねとも言い切れないのがまたむず痒い。


あと主人公、最初のボートで一緒に助かったはずの仲間がいなくなってることに全く思いを寄せないのは何なんだ。
せいか

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