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"Sr." ロバート・ダウニー・シニアの生涯の都部のレビュー・感想・評価

3.9
1970年代に低予算映画の王と呼ばれ、反骨精神に満ちた数多く反体制映画を世に送り出したロバート・ダウニー・シニアの生涯を彼と彼の息子であるロバート・ダウニーJrの手により映し出すドキュメンタリー。

父親の映画全盛期時代に倣う形でモノクロームの色彩で語られる父と子の物語は普遍的な親子の情念を伴った物でありながら、生き方や距離感に『映画』が結び付いた親子ならではの、自身の死の瞬間すらも作品の一部として捉えるという人生の徹底した客体化による、語り手が自らを直視するような物語として完成されている印象。
また三世代による『共演』は、父と子の物語における家族間で行われる静謐な継承に通じるようで、それ故にあのラストがより じんと心に沁みる後味を残すことに成功している。

ドキュメンタリーは言わば人生の切り売りのような側面からは避けられないが、それを自覚的に執り行うシニアの職業人としての精神は感服させられるもので、被写体であると同時に作り手として撮るべき画があると視野を広く持ち続け創造の担い手足らんとする姿はそれだけで感動を揺すられるようでもある。
挿入される彼の作品群のショットの数々が魅力的に思えるのはその精神性とそれらがどこか重なるとも思えるからで、映像を用いた演出も中々良かった。そして度々のJrとSrによる軽口の応酬は映画的なユーモアに溢れており、彼等の人生の生育の様相が肌で伝わってくるような克明な距離感の捉え方も成されている。それが本作にアクセントを齎しているからこそそれが一面的な父子の対話にならず、その対話の奥にある余白をより豊かなものとして感じさせるのだ。

作中においてチャップリンの『キッド』に対する言及があるが、本作もそれと同様にSrとJrにとってそういった映画として次第に位置付けられていくさまは何が起こるか分からないドキュメンタリーの妙と言えるものの、それを物語として消費するにはあまりにも人生に根付いた映像であることは間違いないだろう。
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