hasse

名探偵コナン 黒鉄の魚影(サブマリン)のhasseのネタバレレビュー・内容・結末

4.3

このレビューはネタバレを含みます

コナン映画史上ベスト5に入る良作!ここ10年ではベスト!前作はアクション、ミステリー、キャラクターの魅力のバランスが非常に良かった(赤井、安室頼りになりすぎない)のだが、今回はそのバランス感覚に加え、コナンや灰原をめぐる「誰かを助けたい」という純粋な思いが絶体絶命の窮地を好転させていくというシンプルかつ誰にも突き刺さる筋立てが非常に良かった。

直美・アルジェントが突きつけた「子供が何を言ったって何も変わらない」にたいする灰原のカウンターパンチ、「そんなことない。私だって子供の言うことに影響を受けた」という台詞は、歩美が灰原に昔言った「逃げたくない!!逃げてばっかじゃ勝てないもん!!ぜーったい!!!」(43巻)を参照しているのだと思う。それまで黒の組織に怯えて引きこもりがちだった灰原が変わるきっかけとなった名台詞だ。

歩美の名言や、コナンがいつも助けてくれる姿に感化された灰原が直美を助け、直美も二人を助けたいと思う、その純粋な思いの伝播が事態を好転させていく。その裏側ではキールが灰原、直美の脱出をサポートし、ベルモットが防犯カメラ映像にてを加えシェリー=灰原の方程式を崩すという手助けをする。
ジン、ウォッカ、ピンガという脳筋野郎共が繰り広げる破壊や偽装の殺伐とした舞台を、人が人を助ける尊い行為の舞台へと塗り替えていく。

今回の映画は灰原というキャラクターの集大成でもあり、さらなるステップアップのために用意された舞台だった。これまでの映画では、灰原は自己犠牲を厭わないヒロイン(『天国へのカウントダウン』)、もしくはコナンの相棒枠、情報面のサポート枠、探偵団の母的ポジションのイメージが強かったが、今回は灰原が主体的に行動し、周囲に影響を与える姿が印象的だった。ラストは海に沈んでいくコナンを助けにいくというヒーローっぷりを見せつけつつ、でもコナンの自信に満ち溢れた笑顔に「あなたはどうしてそんな顔ができるの…」とときめく乙女な一面も見せつつ、といういいところづくめだった。

このあたりの灰原の台詞、モノローグの脚本がとにかくいい。「あなたは知らないでしょうけど、さっき私たちキスしちゃったのよ?」とか、「工藤くん、あなたの唇、彼女に返したわよ?」とかバシバシ胸に刺さる。灰原にとって蘭は恋敵でありながら姉の面影を重ねてしまう、特異な存在でどうしても面と向かって接することを避けてしまう傾向にあったのが、まさかまさかのラストで不意打ちキスとは。映画のキスシーンなんて星の数ほど見てきたが、このようなシチュエーション、意味合いを持ったキスを見たのは初めてかもしれない。また、女の子同士のキスが安易に「百合」として消費されない土壌も今のエンタメ界にはできつつあり、それを見越してこのラストシーンを持ってきたような気もする。(もちろん、ファンサービス、百合として需要したい人はそれはそれでよいのだろうけど)

映画としては満足だったが、やはりここ数年の味方戦力インフレ具合はまずいですね笑 いくらジンが策を練り、ウォッカが頑張って遂行しても、コナン側はベルモット、キール、安室、赤井、日本警察、FBI連中が全力でバックアップするんだから……。

そして、「コナンや灰原の正体を知った黒の組織メンバーはジンに粛清されがち」説は今回もピンガによって継続立証されてしまうのであった。ここまでくるとジンの意思を勘ぐってしまうレベル。

色々書いてたら原作読み直したくなってきた……。
hasse

hasse