ちっちゃなきょゥじん

名探偵コナン 黒鉄の魚影(サブマリン)のちっちゃなきょゥじんのネタバレレビュー・内容・結末

3.6

このレビューはネタバレを含みます

 ヒット作品だけあって見処は多い。特に、前半の直美アルジェントの物語は切ない。善意で開発した老若認証で居場所を特定し易くした事が、父の射殺を招き、幼馴染の志保(灰原哀)の正体も明かしてしまう。善意の科学技術が、犯罪に転用されるのは現実的なリスク。直美の悔しさと哀しみは胸に迫った。彼女が終盤も物語の中心にいたら、より感情移入できたかもしれない。
 中盤で灰原と直美が潜水艦から脱出する。一番気になってのはこの部分。魚雷の発射孔から出入り可能でも、問題は発射孔にどう辿り着くかでは? ジンの出迎えでてんやわんやで手薄だったとしたら、随分と穴だらけな組織に感じる。
後半の焦点はピンガに移る。グレースへのなりすましは予想外で、明かされる過程は面白かった。ただピンガの人物造形が粗く、組織の中で成り上がりたい純粋悪として描かれたので、感情の移入しようがなかった。加えて、改善の余地があったとしても犯罪捜査に活用可能な八丈島の拠点が、あっさり破壊されるのも釈然としなかった。
 ベルモットが灰原哀を救った方法や理由が明かされる最終盤は見事。フリが効いている分、心地よい回収された。ただ、灰原哀がコナンに別れを告げるモノローグも、さほど真剣には聞けない。「サザエさん」「こち亀」「うる星やつらBeautiful Dreamer」同様、名探偵コナンは終わらない日々の物語。連載が続く限り、登場人物の構成は大きく変わらない。コナンや灰原に身バレの危機が訪れる度、なんだかんだ大丈夫だよねと思わせてきたのは青山剛昌先生自身。人気作だからこその定番を超える展開が欲しい。
 と言いつつも、コナンへの口づけを蘭に返す筋の通し方で、灰原哀の評価がまた一段上がったのは確か。