ぶみ

水は海に向かって流れるのぶみのレビュー・感想・評価

水は海に向かって流れる(2023年製作の映画)
4.0
この雨の日の出会いが、世界を変えた。

田島列島による同名漫画を、前田哲監督、広瀬すず主演により映像化したドラマ。
高校に通学するため、叔父の家に居候することとなった高校生と、そこをシェアハウスとして住む住人等の姿を描く。
原作は未読。
シェアハウスに引っ越してきた高校生・直達を大西利空、直達の叔父でシェアハウスに住む脱サラした漫画家・茂道を高良健吾、同様にシェアハウスの住人として主人公となる26際のOL・榊を広瀬、女装する占い師・泉谷を戸塚純貴、世界を旅する大学教授・成瀬を生瀬勝久が演じているほか、泉谷の妹で直達の同級生・楓を當真あみ、直達の父を北村有起哉、榊の父母を勝村政信、坂井真紀と、個性派キャストが勢揃い。
物語は、叔父の家がシェアハウスと思わずに引っ越してきた直達と、いつも不機嫌そうな顔であり、「私、恋愛しないので」と宣言している榊を中心に、シェアハウスの日常が描かれるのだが、シェアハウスの住人が、キャラが立っているメンバーばかりであり、あまり人物描写もないまま展開していくため、原作を知らない私としては、少々入り込めなかったものの、冒頭、榊がつくったポトラッチ丼で胃袋を鷲掴みにされることに。
原作に対する予備知識が皆無であったことから、予告編を見る限り、謎の過去を持つ主人公の女性と、彼女に恋をしてしまう高校生の重めのドラマかと思いきや、前述のように、住人の存在そのものがコミカルであり、要所要所で、ニヤリとするような笑いが挿入されるため、重苦しさはなく、全体的にほんわかムードが漂っており、これはこれで良い意味で裏切られたところ。
特に、榊がつくる料理を筆頭に、食事のシーンが多く、どれもこれも美味しそうなものばかりで、飯テロ映画的な一面を持つとともに、直達と楓のエピソードも、青春ドラマとして抜群の出来栄え。
そして、何より、OL役を演じるのが初めてという広瀬の透明感と、榊が持つ影を同居させた立ち振る舞いは見どころの一つであり、その表情は、私と同世代である宮沢りえの若かりし頃を彷彿とさせるものであるとともに、常に不機嫌な役どころで見せる横顔は、姉・アリスとそっくりであり、やはり姉妹だなと感じた次第。
原作を知らないと厳しい面が散見されるものの、是枝裕和監督『怪物』が注目される中、その裏で、思いのほかと言っては失礼ながら、『怪物』とは別の意味で邦画の良きエッセンスが散りばめられており、ここで終わると良いなと思ったシーンでエンドロールに入り、そのエンドロールで流れる、本作品のために書き下ろされたスピッツの「ときめきpart1」とともに、爽やかな一陣の風が巻き起こる良作。

鰯の頭、入れないか。
ぶみ

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