Jun潤

水は海に向かって流れるのJun潤のレビュー・感想・評価

水は海に向かって流れる(2023年製作の映画)
3.7
2023.06.10

広瀬すず主演作品。
直近の作品ではW主演や相棒役などが主で、すずちゃん単独主演はだいぶ久しぶりのような感じ。
しかもいつまでも少女のようだったすずちゃんがついに年下から憧れられる大人の女性役ですか。
その成長ぶりも目に焼き付けましょうかね。

高校生の直達は、登校しやすさを目的に叔父の家に居候することとなる。
しかし、最寄駅まで迎えに来た女性・榊に送られて行った場所は曲者揃いのシェアハウスだった。
言動や態度にどこか棘のある榊には、直達に対して思うところがある。
それは、直達の父と榊の母がかつて不倫していたという事実だった。
母と離れて暮らすようになってから10年、一生恋愛はしないと誓った榊に対し、直達は不器用ながら徐々に近付いていくが……。

前田監督は人間を描くのが上手いですねぇ。
過去作では家族、老後、介護と様々なテーマながら、それらに対して独自の価値観を持って動く人たちの感情の動きや、カメラワークや役者の位置取りでクスッとさせるところなんかは大体共通していたように思いますし、今作にもこれらは見られました。

16歳という、大人と子供の間とも言える年齢。
ちょうどその歳の直達だけでなく、その歳の出来事から時間が止まってしまった榊と合わせて、良くも悪くも周りから影響を受けやすい微妙な年齢の心の機微が描かれていました。
またその二人だけでなく、大人も大人でクセだらけだし、子供は直達のクラスメイトであり直達に想いを寄せる楓の一途で純情な感情表現でもって、よりハッキリとした対比となっていたと思います。

タイトルの『水は海に向かって流れる』、これには個人的に二つの解釈を感じ取れました。
まず第一に水のように人間は歳を取って子供から大人になっていくということ。
海に向かって流れを止めないように、ずっと子供のままでは、子供の時間から止まったままでいることはできず、大人に向かって流れ続けていく。
そして、海の水が雲となってまた大地に降り注ぐように、大人から子供へと繋がっていく、血だけではない縁のようなものもある、ということなのかなと思いました。

また、作中で榊が言っていたように、怒りや幸せなどの、目の前にある感情や事柄は、誰かの記憶に残っていたとしても、その誰かも100年後には誰もいないし、いつか前を向くために忘れていくものなのかもしれないという、人生や現実の儚さもまた、作中では描かれていたのだと思います。
Jun潤

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