ビンさん

たぶん杉沢村のビンさんのレビュー・感想・評価

たぶん杉沢村(2022年製作の映画)
3.8
シアターセブンにて鑑賞。

元々はヨーロッパ企画の舞台作品だったのを、山口淳太氏が映画化。
映画化にあたって本広克行監督主催のFOEが中心となって製作。
出演されている演者さんたちも、このFOEのメンバーとのこと。

東京での上映を経て、神戸の元町映画館でも上映された際に観に行きたかったのだがタイミングが合わず。
しかし、今回MOOSIC LAB 2023での特別上映ということでシアターセブンで上映されたので、やっと観ることが叶った。
ちなみに大阪での上映はいまのところこれ一度きりである。

さて、僕が本作に興味を持ったのは、タイトルにある「杉沢村」が理由だ。
いわゆる「杉沢村伝説」が本作のモティーフになっている。
この都市伝説については、80年代の後半から話題になったようだが、僕がパソコンを買ったのは90年代になってからなので、初めて「杉沢村伝説」を知ったのは、たしかいまは無きサブカル雑誌「GON!」だったかと思う。
伝説の詳細について、本作でもさらっと説明されているが、ご存知なき方はwikiか何かで調べてもらうとして、実はその頃にある人物から恐るべきことを告げられていたのだ。

「杉沢村伝説」を作ったのは俺だ、と。

当時、色々と映画や映画音楽のことで情報をやり取りしていた、東京在住のライターの仕事をされているK氏という方がいた。
僕は7年間の東京での単身赴任生活を終え、奈良へ帰郷したが、そんな頃に僕が作っていた同人誌に興味をもっていただいたのがK氏だった。

まだPCを持ってなかったので、情報のやり取りは文通(笑)だったが、何度かは電話でもコミュニケーションを取ったこともあった。
その中でK氏の口から直に聞いたのが、件の杉沢村伝説を「作った」という発言だった。
そもそもは「GON!」のようなサブカル雜誌に掲載用の記事を考えねばならず、そこで思いついたのが、杉沢村伝説だったという。
実際はK氏単独での創作ではなく、幾人かの共同でのものだったそうだが。

その後、TVの「アンビリバボー」などで杉沢村は何処にあるのか、などと総力特集されるのを、正直冷めた目で見ていた。
なんせ「創作だもの」あるわけない。

また、名だたる民俗学研究の方々も、あれこれ言及されたりしていたのを、多少慄きながら読んだこともあった。
なんせ「創作だもの」あるわけない。

その後、K氏とは何度か情報を遣り取りしたが、あれだけ世間に伝播してしまって、自身はどう感じているか訊こうとしたが、それを口にするのが何故か恐ろしくなって未だに訊けずにいる。
もっとも、ここ10年近くは連絡を取っていない。
今も元気でおられるのか、まさか自分の創作したものに呪われて、とんでもない目に遭っているのか。
かくいう僕も、この件についてこうして文字にすることで、思いもよらぬ目に遭うかもしれぬ。
なので、この件についてはここで一旦、筆を置くことにする。

という、違う意味でおっそろしく前置きが長くなったが(笑)、本作もいわば「杉沢村伝説」シンドロームの落し子と言っていいだろう。

観るまでは、ああ、これも杉沢村の存在の有無を問う、ここ数年東映で作られているフォークロアをテーマにしたホラー映画の流れ的な作品だろうと思っていた。
そして、かような内容であれば、ちょいと辛辣な感想でもかまして、日頃のストレスのはけ口にしてやれ(笑)、と、意地の悪い視線で臨んだのだが・・・。

たしかに、タイトルにも掲げているように、本作は「杉沢村伝説」を扱っている。
扱ってはいるけれど、そんなのは本作でいえば単なる「とっかかり」に過ぎない。
むしろ、件の都市伝説を換骨奪胎して、さらにその上をゆくエンターテイメントに仕上げていたのはお見事、という他ない。
しかも、1時間という中編でありながら、2時間くらいの映画の印象があった。
それくらいダラダラした内容というのではなく(笑)、それほど内容が濃密という意味で。

クライマックスは多少力技でねじ伏せた感もあるが、それとて本作の魅力の一つである。
じつに楽しい一編だった。

今回の上映に当初登壇予定だった山口監督は体調不良(いわゆる呪いなのか?)で欠席されたが、オカルトライター役の木林優太さん、カメラマン役の花岡咲さん、保険会社社員役の勝沼優さん、松井花音さん、雑誌社編集部員役の瀬野一至さん、大屋海さんという、いずれも本作で重要な役を演じられた演者さんたちによる豪華な舞台挨拶で、一年前だったという撮影時のエピソード等々楽しく語っていただいた。
とにかく女優さんたちはいずれもビューティーな方ばかりで、本作で唯一批判的な部分といえば、美人ばかりでリアリティが無いぞ(笑)ってことか。

舞台挨拶後にサインをいただく際に、花岡さんや松井さんが、大阪で上映できたことを喜んでらっしゃったのが印象的だった。
それは観るこちらとしても同じく嬉しいことである。
自分が奈良から来ていることを告げると、関西上映時に配布していただいたポスカードに、ちゃんと鹿もいますよ、とおっしゃっていただいたことにウケつつ(笑)、感謝することしきりであった。
ビンさん

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