おこのみやき

怪物のおこのみやきのレビュー・感想・評価

怪物(2023年製作の映画)
4.3
台風接近中、人の少ない映画館で。
怪物とは誰なのか。私たちは物語を受け取る時、誰が善で誰が悪なのかを判断しようとする。本作ではそのような私たちの中の怪物が浮かび上がってくるようだ。最初、湊の母親(早織)の視点から語り、鑑賞者には彼女に相対する人々を「悪」と判断させ、その後そのような見方がもしかしたら誤りだったかもしれないと気づかせる物語の仕組み。
そもそもの私たちの物語への向き合い方というものが試され、そして批判される。
それは日常生活にも当てはまる。私たちはいつも無遠慮にジャッジを下し、怪物を作ろうとする。

「誰の視点か」がはっきり表されない部分もあった。ある人とある人の視点が交わる場面もあれば、まったく違う方向を向く場面もある。
ドキュメンタリーのように彼らの視点を客観的に、起こったことをそのまま描いているように思える場面もあれば、彼らにしか見えていない主観の世界を描いているように思える場面もある。

坂元裕二の描く人々は、簡単に善悪に分けられる人々ではなく、また悪に対してそれらしい背景を用意して同情を誘うようなこともない。彼は「それでも、生きていく」や「Woman」で徹底的に加害者と被害者の関係性を描いてきたが、今回はそのようは枠組みさえもはっきりと存在させていない。想像の斜め上を走り続ける人。