映画って、なんなんだろう。
人を感動させるもの？ドキドキワクワクさせるもの？幸せにするもの？
「怪物」を見終わった時の感情は、全くもってどれでもない。
心の中にボーリング球を放り込まれたような重苦しさ。
単なる悲しみでもなく。やり場のない怒りでもない。
この事件の密かな目撃者となることで、
人間という業をもう一度、背負わされてしまったような。
それでも、見てしまう。そして見てよかった、と心から思う。
是枝監督の作品には、いつもそんなところがある。だけど今回は凄まじい。
その理由が坂本裕二なのか、監督の円熟期だからなのか、このテーマだからなのか。きっとこの主人公たちの設定を決めるときから、監督は充分に世界を意識してただろう。
でも、そんなのはどうだっていい。
観客の心を導く巧みさ、諏訪湖を舞台にした画の美しさ、演者の迫力。そして是枝監督にしか引き出すことのできない子どもの表情や動き。美しすぎる故に悲しすぎるラストシーン。全てが積み重なり、これまでの作品を凌駕する名作が生まれている。
悲劇は、いつでも炎のように誰もに見えるものじゃない。悪者がいるとも限らない。愛情からも、熱意からも、悲劇は生まれるものなのだ。その紛れもない事実に、私たちはどう向き合えばいいんだろう。
もちろんこの映画にその答えはない。あの悲劇を目撃した大人たちのつづきを、私たちは、考えることしかできない。
