ダイナ

怪物のダイナのネタバレレビュー・内容・結末

怪物(2023年製作の映画)
4.3

このレビューはネタバレを含みます

脚本家の坂本裕二氏の本作のインスピレーションとなった「クラクション」の話がとても惹き込まれる内容で興味津々だった一作。視点毎に食い違う主張、まさしく羅生門効果。母親視点による息子の奇行、学校側の不明瞭な態度。母親の視点で撒き散らす謎と怒りが先生視点に変更した途端、事実が翻り新事実が明らかになりまた謎を残すというミステリアスなストーリーが面白かったです。そんな脚本に子供を曇らせる姿をイノセントに見せる天才である是枝監督がタッグを組んだらそらもう…たまらんだろう。

伏線や描写については書きたいことがいっぱいありすぎて困るわけですが一部だけ。「先生」「学校」の言い間違いであったり、いじめを指摘された瞬間に取り乱してガールズバーの話で攻める所の今まで怒りながらも冷静だったのに感情的に攻撃し出す所であったりと、完璧でない人間らしさに光る細かいリアリティが好み。

隠蔽体質に切り込む内容と思いきやテーマの重きが置かれいてたのは性自認のような。情報多寡な社会、居心地の良いコミュニティを探すことが以前よりは容易となった時代ではありますが、絵空事のようなビッグイベントを信じてしまうような純粋さ、自転車で行ける範囲が現時点の世界全体のような子供達が周囲や教わってきた世の理と反する自意識にどう向き合えば良いのか。「お父さん…」に続く言葉、「テレビタレント」、「男らしさ」提示されていたこれらの布石が子供達のパートで輝き出す脚本の妙。

自分が一番「それは残酷すぎるわ!」と絶句したのは星川の父親が病気治った、好きな女の子できたと言った時。いや同性に惹かれる自分を認めたくなくもあるけどこの気持ちを共有していたと思っていたというか芽生えさせた君が行ってしまうのかい!?という苦しさ。すぐそれが言わされた言葉ということで安心しましたね。

親父さんの病気判定、いじめの原因の一つに「依里の女々しさ」があったように見えたので根本的には「男なのに」の強制が揉め事の火種のようにも思えます。クライマックスの坂本龍一氏の音楽と眩しい雨あがりの世界の映像が少年達の葛藤を爆発させるように解放させる素晴らしい最後。怪物のように思えていた人物にも事情があり、本当の怪物は表舞台(パート主観)では意識できない所に潜んでいる。いやそんな悪い奴らにも事情があるのか…?そもそも怪物なんていないんじゃね?とキリがなくなる疑心を抱えさせられる。要は覆らない証拠を持って話し合えば良いんだ上等だろ。

まあこんなツッコミ野暮すぎるけども、本当の自分を明かせたら苦労しねえわなんだけども、保利先生に正直に相談しておけば…。先生キャリアも世間体も詰んでてやりきれねェ。息子の愛し方が異なる麦野ママと星川パパの邂逅によるIFもエグい方向に拗れそうなので見てみたい。
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