ベンジャミンサムナー

怪物のベンジャミンサムナーのネタバレレビュー・内容・結末

怪物(2023年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

 本作は、他人をカテゴライズする社会やその思考を"怪物"として描いてるのに、クィアパルム(性的マイノリティーを描いた)賞を受賞したことで観客に変なバイアスがかかってしまっている事がなんとも皮肉めいている。

 性的マイノリティーかどうかに関係なく、子供の頃に言語化できないモヤモヤした感情を抱えた事、そのことで大人達から「何かあったの?」と質問攻めにあっても上手く説明できない(したくない)から適当な理由をでっちあげた事、個人的に怨みはなくむしろ仲良くなりたいと思っているクラスメイトがいても同調圧力に流されてしまう事は、普遍的に多くの人が経験したことがあるはず。

 そんな言葉にならない感情を、湊(黒川想矢)は弦楽器を吹く事で昇華するが、息子のために学校に抗議してる母(安藤サクラ)はその音に気付かず、世間から加害者に仕立て上げられた担任教師(瑛太)はその音に耳を傾ける皮肉な構図。
 …だが、双方が日常的に投げかけてる言葉が湊を抑圧していた、というさらに一筋縄ではいかないバランスになっている。

 何度も繰り返し描かれるビルの火災は、野次馬が火事現場に群がる構図が学校での騒動そのものを象徴してるし、台風の雨風が全てを洗い流した末に湊と依里(柊木陽太)が社会から解放されるラストと対になっているのが上手い。

 本作は決して性的マイノリティーだけに括り切れない普遍的な秀作であるが、それはそれとして今の小学校ではLGBTQについてどのような指導をしているのだろう?と、本作を観て気になった。