アオヤギケンジ

怪物のアオヤギケンジのレビュー・感想・評価

怪物(2023年製作の映画)
4.2
LGBTQへの無理解により起こる悲劇の映画。やや長文です。
多視点の、いわゆる藪の中方式で語られる本作ですが、基本ベースにあるのは大なり小なりの差はあれど、他者への無理解による加害性です。この加害性はおそらくすべての登場人物が有しており、視点が変わることによってその加害性が顕になる、みたいな構造になっています。そしてその中で、常に露見し続けているのがLGBTQへの無理解による加害性になっています。この無理解は当事者である子供を苦しませ続け、しかも逃げ場のないものとしています。
重要なのは、無理解がなぜ当事者にとって苦しみとなってしまうのかということを、ちゃんと描けていると言うことです。上っ面で無理解は他人を傷付けるんだよとか言ってるわけじゃなく、ここがこうでああなるからと、非常にロジカルに、順序立てた説明がなされているのです。そしてそれは多視点だからこそできたよく練られた構成の成せる技だったと思うのです。
今作はこの構成の素晴らしさが特筆に値するほど抜きん出てたと思います。視点によって別人のように豹変する人物描写も、安藤サクラにはそう映ってたけど、子供から見ると違った景色に見えたんだ、みたいな発見が毎視点ごとに用意されていて、むしろ多視点であることの意味を補強しているようにも感じられます。
惜しむらくはこの映画がLGBTQの映画であると言うことを隠して宣伝されていることで、無理解に対しての痛烈な批判である映画に対してこんなに無神経な宣伝があるかね? と憤らずにはいられません。いつまでLGBTQということを秘すること、「ネタバレ」的な要素であること、ショッキングであることとして扱い続けるのか、表現とそれに関わる人々は真摯に向き合うべきだと思います。