骨折り損

怪物の骨折り損のレビュー・感想・評価

怪物(2023年製作の映画)
3.7
感想がなかなかまとまらなかった。

まず上映中、画面を見ていてしっかり物語を追うことに集中できたので前提として映画を楽しめた。

ただ、近年の是枝監督の作品に思っていたことは今作にも色濃く残っていて、そことの折り合いをつけるのはなかなか難しかった。

それは、一言で言うと監督の目線が「いい人」であるという点。

社会問題に光を当てて、問題提起をしようという姿勢は素晴らしいし賛同できるが、そこから着想して物語を展開した先の結論に毒がない。こちらが考えるきっかけは与えてくれるが、じゃあ監督は人のこと気にせずに言うとぶっちゃけどう思っているのか、そこを知りたい。そこを言わないようにしているように思ってしまう。デビュー作『幻の光』で確かに是枝監督の作家性を感じたからこそ、今のあなたの意見を知りたいとずっと願っている自分がいる。

今作は坂本裕二が脚本を務めたことで、これまでの是枝作品にはなかった温度感の人間模様を楽しめたのはとても良かった。これ今笑っていいやつなのかな?とか、そういう日常に潜む曖昧ないやらしさがスパイスとして加わったことで、キャラクター達の愛らしさがグッと上がった気がした。

三人の当事者達のそれぞれの視点で同じ事象を語る構成は面白かったが、フリとして悪者に見せたい人を過剰に演出したりするのはどうかとは思った。安藤さくら目線の瑛太は流石に誇張され過ぎていて、その後に瑛太目線で語り直される時に、演出手段が物語を語る目的とすり替わっているように思えた。もちろん、真実などそれぞれの視点から映る様でしかないので、別人に見えるように映像的に作っているのは分かるが、人物の行動までもが安藤さくらと瑛太目線では違っていたりしたので、それはズルいんじゃ、、と思ってしまった。

あとやはり終わり方。爽やかに終わろうとする感じが正直軽く感じた。バッドエンドにしろとかは思わないが、もっと作家の個人的な思いが最後に見たかった。観客に問いかけるのはいいが、問いかけるならあなたの思いをまずは聞きたい。

言いたいことは色々あった。だからこそやっぱり僕は映画を作りたい、作らないと、と思った。いつか必ず、この映画にアンサーを返す。
骨折り損

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