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怪物のkaitoのレビュー・感想・評価

怪物(2023年製作の映画)
4.2
『怪物』の感想(ネタバレあり)

『万引き家族』でパルムドール賞を受賞した是枝監督の最新作。音楽は生憎今年亡くなられた坂本龍一が務め、脚本は『花束みたいな恋をした』の坂本裕二である。主演は安藤サクラと演技力の高い役者が出演しており、絶対に観ようと思っていた。公開されてから1週間が経ち、ようやく鑑賞。

鑑賞を終えた今、重厚感あるドラマを観終えてひと息ついている自分がいる。自分は是枝監督の『万引き家族』は観ていないし、観ていても『真実』くらいであまり邦画を追っている方ではない。でもこの映画は多角的な面で質が高いと感じた。演技といい、音楽といい、脚本といい。特に脚本に関しては、この映画の「怪物」というタイトルを肌で感じられるような構造になっていたと思う。

演技に関して、安藤サクラを筆頭に演技がうまかった。映画は3部構成のようになっていて、①母親の視点②教師の視点③そして依里、湊の視点であった。第一パートで物語の大枠を母・早織視点で描いている。初めて知る物語だからこそ、母親視点で感情移入できるような構成だったように感じる。子供の捉えきれない感情、学校に対する不信感をメインに視点を母親に合わせるようになっていた。校長を演じた田中裕子、本当に素晴らしかった。観ている人にまでフラストレーションを高めさせる大きな要因になっており、早織に感情移入できる点でかなり効いていた。

そして第二部は教師の保利の視点。母親視点で描かれていた第一パートで感じたものが捻れ・疑いを生むようなものだった。不信感を抱いてたものに対する、新たな発見・明確になるものが多くあり、違った視点で見ることで気づきがある。

第三部は依里と湊の視点。第一部では繋がりが感じられない2人が、第二部で片鱗が見え、第三部でその全体像が明らかになるといった構造なっていた。今まで感じていた違和感や伏線がしっかり回収されている。もちろん孫の死の真相・火事の真相など100%語られていないこともあるが、全てを語る映画は好みではないのでこの点も良かった。そして物語は家事という災害から始まり、土砂崩れという災害に終わるが、2人の世界はこの上ないくらい輝いている。映画の最後がホワイトアウトするのも、この映画が良い結末を迎えているのを示唆しているものだと感じる。

①彼らは最後どうなったのか?

彼らが最後どうなったのかが映画の疑問としてあがっているが、「生まれ変わった」というよりは2人だけの世界へ昇華したように感じた。「生まれ変わったのかな?」「そういうんじゃないと思う」というセリフを最後に、映画が閉じる。2人が話しているんだから、きっとそうだと思う。

②この映画のタイトル「怪物」について

観る前からこのタイトルが何を意味するのか?怪物は誰なのか?という疑問が繰り広げられていた。個人的に落ち着いたのは、特定的な登場人物の誰かが怪物ではないということ。言い方を変えれば、怪物は誰かの中にいるというよりは人と人の間に生まれている物だと思う。
 この映画は構造上、章を進めるたびに新たな事実が発覚していく。登場人物がどんな行動していたのか、どういう思いで行動をしていたのか。一つの見方では「きっとこうだろう」という固まった考えを生む中で、他者の視点を通して事実を知ることで本質は違った物だとわかる。その思っているもの・感じているものと実情の「差」のことを怪物と擬えたのだと感じた。ちゃんと知ることでその間にいる怪物はいなくなる。
 特に依里と湊が廃電車の中で行っていたゲームが印象的だった。「かいぶつ、だーれだ」という一言から始まり、質問をし合って自分が何者かを知る。質問して、知ろうとすることで答えを知る。ほんの1シーンだが、自分が映画全体を通じて感じたのものがこのシーンに詰まっていた。

この映画における「怪物」の解釈は色々あると思う。鑑賞してから1日経って、感じたことをツラツラ書き自己満足です。パンフレットは読みたいですが、もう一回くらい観てから読もうかな。
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