ぼさー

怪物のぼさーのレビュー・感想・評価

怪物(2023年製作の映画)
3.9
相手と対峙する側は相手を通してでしか相手の世界を見ることができない。相手の人間関係や膨大な背景を正しく把握することは難しい。

そのことについて、まず母視点での物語提示が行われ、この時「我が子の言動の謎」として物語全体の謎の提示も行われる。そして次に担任の先生視点で物語提示がなされ、最後に子視点の物語として謎が解かれて答え合わせが行われる。

各視点の物語は鑑賞者のステレオタイプを引き出す演出になっており、誤解を誘発するよう仕向けられている。そういう凝った作りだったので飽きずに観ることができた。

しかし、主要な登場人物は人間というより記号的に描かれており、登場人物たちを物語の枠のなかに多少強引に当てはめていたように感じた。優れた作品は鑑賞者一人一人が自身のなかに物語を見出すように仕向けるものだが、本作は誰が見ても同じような物語として鑑賞できるように作られており、多様な解釈や感想が生まれる余地が少ない作りになっていたように思う。

本作のどこかに自分の経験・体験を重ねられるか想像してみても、劇中の事象はどれもステレオタイプに誇張されているように感じられてリアリティがなく自分とリンクさせられなかった。

過去の是枝監督作品は丁寧に登場人物たちの心情が描かれていたが、本作では物語をこなす駒のごとく演出されていたように感じた。なので誰が演じても同じようなレベルの作品になってしまうような軽薄な作りだったと思う。
安藤サクラさん、永山瑛太さん、田中裕子さんの演技の素晴らしさをもっと堪能したかったのに、どこか物足りなさがあった。

****
本作は、家庭と学校で悪意ある加害を受けている子どもと、それを自分なりに社会的にうまく振る舞いながら救おうとする友人。そしてその友人と同様にあくまで善意で行動する取り巻きの大人たちの物語である。個々の善意は誤解により疑心や精神消耗を招き、結果として事件に発展してしまう。

子視点の物語は『小さな恋のメロディ』や『禁じられた遊び』を想起させる秘密基地形式のもので様式美っぽさがあり、やはり象徴主義的というか記号的な仕上げ方だったように思う。

劇中は飽きずに観れて面白かったけれどもさっぱりしすぎていたので、次回はもっとねっとりと人物を描いてほしいと思った。
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