排路

怪物の排路のレビュー・感想・評価

怪物(2023年製作の映画)
5.0
みんなが同じ方向を向くことの不可能性(保利先生が体罰をしてるのか、それとも生徒のいじめか教師も親もわからない。)みんなが同じ方向を向いてることになる神秘的イメージ(その最も日常的なのが、サイレンを鳴らす消防車が道を通ると階級が消滅したかのようにみえること。それから車の駐車)が、美しく共存してる。

学校に保護者が訪問するとき、親が誰かをがいじめてるのか子供に聞くときは無理やりでないと視線を合わせられない一方で、風呂に入ってた依里を抱きしめて引き揚げる湊のショットなどでは、重なり合う身体と有り余る情動のエネルギーの可傷性が入り乱れ視線の問題どころではない。

「わたしの気持ちがあんたに見えるのか?」から「みんな同じ気持ちを抱いている」への転換には倫理的な壁が伴いがちだけど、それにモンタージュという社会主義リアリズム的手法で真正面から挑む本作を今の時代に見ることを喜ぶべきか焦るべきか。。。いずれにせよ、重いか軽いかで掬い上げられない、繊細に見られるべきイメージがあった。そういう言説に含まれがちなマジョリティの世界にマイノリティを迎え入れるコロニアルな含意は全くないと思う。むしろ差異は差異として確実にあるのに、身体は同じ方向に向く可能性がこめられてる。身体が同じ方向を向いているということは、観念のレベルでも何か共通してることがあるっていうことだと思うし。

差異が一旦脇に置かれて校長とシングルマザーと体罰疑惑の教師と多分生徒たちが重なり合う点が奇跡的に浮かび上がる時があるし、特に子どもたちの秘密基地に体罰疑惑の教師といじめられた疑惑の保護者が台風が直撃しているなか走っていくショットの、帰せずして同じ場所に向かっている画面は、わたしには力強いメッセージとして受け取られた。
排路

排路