ぐっない

怪物のぐっないのレビュー・感想・評価

怪物(2023年製作の映画)
5.0
6.3

この世界には見えない人がいる。
暗闇なんてないのに見えなくなる人がいる。
私たちが「普通の幸せでいいんだよね。贅沢は言わないし、普通の家族と、普通に毎日を送れれば良いんだよね」と言ったときその普通の土俵にすら立てない人がいるけれど私たちには見えなくなる。
世界にはいくつもの多数決があって、その多数決でずっとずっと少数派だった人たちの存在は無いことになる。
そうして消された人たちがどこへ行くのか私たちは知らない。私たちの生活は普通に回るので知らない。

何も説明されないまま淡々と進んでいく。大きな事件も起きないし美しく壮大な景色も映さないし盛り上げてくれる音楽も鳴らないし分かりやすいドラマもない。ただそこにある幾つかの人の幾つかの瞬間が描かれるだけ。
この映画はもしかしたら、多数決の、大多数の人にとって、なんにも面白くないかもしれない。
でもたぶん、この映画はある1人に、世界中にいる見えなくなった人のために作られてて、たぶんきっとその人に届けって、祈りが込められてる映画なんだって思った。
それを、坂元裕二が書いて、是枝裕和が撮って、坂本龍一が音楽作って、こんなに有名な俳優がいっぱい出て、こんなに大々的に宣伝されて、カンヌにも出て、その優しさにめちゃくちゃ感動して涙出た。優しいなーって思った。坂元裕二は、いつも優しい。私はぜったい大多数の側なのに、この人の優しさにあてられて、優しくなりたいなって思う。ばかみたいにまっすぐそう思える。

自分の加害性に気づく。私のせいで、無かったことにされた人が、ことが、あるんだろうと思う。変えていかなきゃいけない。私が。
ぐっない

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