又三郎

怪物の又三郎のネタバレレビュー・内容・結末

怪物(2023年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

怪物

それは、固定化された他者のイメージ
そして、そんなイメージを恣意的に形成する自分自身

物語は母親、教師、そして子どもたちの視点を通じて一種の群像劇として展開していく。

冒頭で言及したイメージは、本人ではなく、噂や口コミで形成されていく。
SNSやインターネットで対象の評価がいとも簡単に操作されてしまう現代は特にその傾向が強い。「エコーチェンバー」という言葉が普及して久しいが、つまり真偽はどちらでも良い。
だからとにかく保護者を集めて、当事者を前に立たせ、形式的に謝罪をすれば一件落着。
分かりあうことなど、二の次だ。

疑心暗鬼の連鎖の中、私は鑑賞中は「怪物」探しに必死だった。
母親か、教師か、校長か。いや実は息子なのでは...

どれも違った。

そんな見方が恥ずかしくなるほどに、現実はもっと純粋無垢で、そして残酷だった。
廃車の中で繰り広げられる子ども2人の濃密なやりとりを前に、私はどこかぎこちない気持ちを抱く。正確にいえば「拒否感」だ。
あぁそうか。私は作中ではあっち側の人間なんだ。

やがて、金管楽器に託された声なき「声」を聞く。
多様性という言葉がこれほどまでに市民権を得ているはずの現代で、彼らに100%共感できるほど自分はまだ成熟できていないと気づいた。

全てを呑み込む勢いを持ったあの激しい嵐は、儀式であると同時に「怒り」だったのではと思う。現状を変えられない、理解してもらえないもどかしさを持った強烈なうねりだ。

「生まれ変わったのかな」
嵐の通過後、依里の言葉に悟ったかのように湊が力強くつぶやく。
「変わらないよ」

まさしく現実は変わらない。だからこそ、観ている私たちが徐々にでも変わっていかないといけない。
誰でも享受できる幸せを手に入れられるくらい、当たり前の社会になるように。
又三郎

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