このレビューはネタバレを含みます
ある出来事を複数の登場人物に語らせる手法は『羅生門』的でもあるし、視点の違いにより真実を浮き彫りにする進行は『運命じゃない人』や『ミセス・ノイズィ』などにも観られ、語り口は特に目新しくはないのだが、本作はその謎解きめいた展開に「怪物」は誰なのかという観点を入れることで、一段、作品に深みを付与することに成功している。
とにかく構成が抜群にうまい。第一部の安藤サクラの小学校に対する怒りと校長、田中裕子を始めとするふてぶてしい教員たちの対立が、ただならぬ緊迫感を湛えているため、自然と集中力が高まりもう映画から逃れられない状況になる。
そして第二部の担任の行動の真相はまぁ、先読みできる内容なのだが、そこではあまり決着を観るという展開はなく、そして第三部の子供たちの視点で、映画の帰着は予期せぬところに流れていく。まさに唸らされる脚本。
「怪物」はいったい誰なのか。今どきっぽいいい加減な担任教師なのか、まっとうな対応をしない学校側なのか。はたまたモンスターペアレント扱いされるシングルマザーなのか。
第一、二部では現代社会の問題点を浮き彫りにしつつ、第三部で子供たちが主役になるところで、虐めをしている3人組のクラスメイトや主人公「みなと」の親友「星川」の父親も「怪物」候補に加わってくる。
そんな犯人捜し的な展開を主軸にしつつ、ラストは小学生のもつ理解不能な行動パターンや思考による突き抜けた展開となり、個人的には、それこそが大人から見た「怪物」なのではないかと思ってしまう。
大人たちの行動にはすべて理由と起源があり、観ている方はそれぞれの感性で白黒をつけることになる。しかし子供の得体のしれない思考はもう大人の理解を超えているのだ。
最後の子供二人のシーンの美しさよ。大人視点でのぎすぎすした展開からの、子供視点での終結が見事すぎるし、こんな構成の映画は記憶にない。
坂本龍一の音楽も美しく、映画にジャスト・フィット。いやいや、是枝監督はまだまだいろいろなことをやってくれそうで、目が離せない。
結局、「怪物」候補の中で一番まともなのは安藤サクラが演じたシングルマザーなのかしら。