是枝裕和監督の『怪物』を鑑賞。この時代にふさわしい、素晴らしい一作。
何気ない一言や日常に潜む、差別や不条理。「正常」や「普通」が孕む暴力性。認知バイアスによって浮かんでは消える怪物たち。そういった社会的メッセージを含みながらも、一つのヒューマンドラマと成立させてしまうあたり、つくづく是枝監督演出・坂元裕二脚本のすごさを感じさせられる。
白線、クリーニング店、消しゴム、転覆病の金魚、水の濁流、燃え上がるビルと野次馬たち、薄暗いトンネル。映画内で描かれるさまざまなメタファーの中で、特に印象に残ってるのが、物語終盤、掻いても掻いても流れ込む土砂を映したワンシーン。その画の美しさと切迫さに惹かれると同時に、「見ようとするけど、見えないもの」という、この映画そのものがもつメッセージを物語っているように見えて、心を鷲掴みされた。
ちなみに一部界隈でさまざまな考察を醸しているラストシーン。正直見終わった直後はどっちなんだ……？と感じていたんだけど、色々なインタビューで監督・脚本家のお二人がはっきり明言されていて、どこか救われる自分がいた。
