ツクヨミ

怪物のツクヨミのネタバレレビュー・内容・結末

怪物(2023年製作の映画)
4.9

このレビューはネタバレを含みます

辛辣で多様な社会問題と緻密でよく練られた脚本.そして是枝監督らしさが溢れたラストまですごい現代的な傑作。
是枝裕和監督作品。2023年カンヌ国際映画祭にて脚本賞を受賞した本作、監督的には前作"ベイビー・ブローカー"が良かったので意気込んで見に行ってみた。
まず今作はやはり脚本が凄まじく手が込んでいる、全体的にいえば黒澤明の"羅生門"のように3つの人物の視点で同様の物語を語るスタイルは確かに羅生門スタイルだ。だが"羅生門"が視点の変化で話が微妙に違うというのに対し、今作は視点を変えることで話を変えずあくまでもそれぞれの視点で見なければ見えてこない真実を徐々に見せるということに主眼が置かれているのが明らかに違う。
まあ最近の邦画界隈はめちゃくちゃ社会問題の物語が強いと個人的に思っており、今作も昨今強かった"空白"や"茶飲友達"と同じく辛辣でリアルな社会問題を活写していく映画だ。しかし脚本の語り口から羅生門スタイルで視点が切り替わると見せる社会問題も切り替わるというのがめちゃくちゃ新感覚でびっくりさせられる。
まず第1章は親目線で"子どもが先生に暴力を振るわれている"のではないかという疑念で物語っていく。現代社会でしばしばとりだたされるいきすぎた教育や体罰問題を親目線で見せていくスリリングで胸糞感マックスなのが胃がキリキリしまくり、ラストの見せ方までキツすぎるし、この時点でもう見たくない映画かもとなかなかに心をえぐられた。
そして第2章は先生目線で"生徒同士のいじめ問題"が起きているのではないかという疑念で物語っていく。これもまた現代社会で顕著な生徒同士のいじめ問題と学校側のリアルな対応問題をエグく活写。第1章からのミスリードが変化し、またもやミスリードでラストまで引っ張る脚本力よ。
最後の第3章は子ども目線で"いかに自らの場所を模索するか"という真実が全て繋がる結のストーリーになる。全てのミスリードを翻し学校で辛い立場に立たされていく二人の少年がなんとか居場所を探していく、この章に関しては快活な少年たちの姿が是枝監督らしさと繋がり、坂本龍一の音楽とマリアージュした結果素晴らしくエモーショナルな雰囲気を与える見せ方に拍手したくなる。また最後は友情から同性愛にまで発展させ、開放感あるラストも最高に気持ちいい。だが結局何も解決していないんじゃないかと置いてけぼり感あるのは確かでヴィム・ヴェンダースの"パリ、テキサス"的なラストかもとも感じる。でも結局この素晴らしきラストを見るとどうでもよくなるよく練られた脚本に恐れ入った。
坂本裕二の脚本力が一番すごいが、坂本龍一の音楽もラストの是枝監督らしさもあってそれぞれ製作者の魅力が結集した素晴らしい社会派映画だった。こんな邦画こそ世界的に評価されて欲しい作品筆頭になっていきそう。2024アカデミー賞などなど期待大だね。
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