Ginny

怪物のGinnyのレビュー・感想・評価

怪物(2023年製作の映画)
5.0
この映画を語り表す言葉を今の私は持たない。

見るしかない。

凄すぎて帰途映画のことをずっと考え、帰宅して急に込み上げてきてボロボロ泣いた。

真実なんてものはない。様々な視点からの事実があるだけ。
SNSの発展で歪に気持ち悪く進化を遂げた世の中。何でもかんでも話題に食いついて学級会を開いていっちょかみ発言。文字となって実態を伴って存在が観測できて無視できない、巨大に膨れ上がった。

自分が見えてるものが、目に見えてるものが感じたものが、何も分かってないことを何度も突きつけられ思い知る。
繋ぎ方も描き方も素晴らしく無駄も隙もなくどんどん明らかに答え合わせされていく。
引っかかって気になったものが後からこれだったのかー!とわかり、何度叫びたくなったか。ああああああああああ

現実はこんな優しく親切じゃない。
気付かないまま知らないまま進む。

辻村深月『嘘つきジェンガ』が思い浮かんだ。見えてるもの、自分が気づけるものはとても一面的。
『Another side of 辻村深月』の伊坂幸太郎さんとの対談を思い出した。「巨悪の根源となる誰かはいない 巨悪に見えるシステムあるだけ」
誰かを悪いとして糾弾して多数の人が言葉で突き刺しても物事は終わらない。それを利用してか悪い犯罪はトカゲの尻尾ぎりのものも多く見られる。

何が事実かわからないから、下手に言えないからというのを逃げの理由にした傍観。良い人ぶった逃げの理由で悪い空気が醸成されていく様まで描かれてて鑑賞者への突き刺し方がえげつない。

いじめもしてない虐待もしてない隠蔽もしてない、だから自分は善良、悪いことしていない、この映画の中のことは他所の話、ひどい人がいるもんだなんて思う人いたとしたら、あまりに頭がお花畑なのではと思う。
子供の頃に読んでからずっと引っかかってる。まんが化石動物記10巻の台詞。
「自然をこわし動物たちを絶滅においこんでいるのはけっして残酷な人間なのではない ふつうの人間なんじゃ」
それも映画見てて思い浮かんだ。
怪物だーれって、お前ら全員なんなんだよって思わされた。
みなさん自分はなんですか?他人の不祥事不手際を匿名世界で叩きまくって、攻撃し続けるけど、自分は一体なんですか?

サイコパスの巨悪がわかりやすく描かれるんじゃなくて、自分を善良と思っててその実、そのまま生きて社会の構成となって普通に(?)生きていく人たち、それぞれが影響し合って偏見をお互いに生み出させ引っ張り合って傷つけてるのに気付かない人たち。モブの人たち。

あの安藤サクラが、すごい良い演技を今作で見せつけてくれた瑛太が、霞んでしまう程に(言葉のあや、霞むわけはないのだけれど、それよりもすごく印象に強く残るのが)圧倒的に子役2人の時間が本当に本当に本当にすごい。

是枝監督の手腕がこれでもかと発揮されてるのかなと思った。
けどひとつ心配してしまうセンシティブなシーンもあってケアとかコーディネーターとかいるのかなと気になる。もうまりちゅうみたいな合法ロリが子供役をやった方が子供を守れるのか?大人のエゴで、良い作品を生み出す/見たいために子供が犠牲になってないか気になってしまった。
でも全部がお利口さんな綺麗事なんて存在しなくて、子役だけにとどまらず色んな人が様々なものをそれぞれ犠牲にして作品も仕事も世界も成り立ってるのかな。

漫画でしか読んだことないけど桜庭一樹の『砂糖菓子の弾丸は打ち抜けない』も思い出した。

子供の世界は狭いって言うけれどその中にも社会はできてて、謎の万能感とか世界がわかった気がしたり大人は全然わかってくれないって思ったり。
なんだろうね。
命の危険ギリギリ感。子供っぽさが忌憚なく描かれてる感じがしてハラハラしたけど、こんな感じだよなと思った。

でもこれがクィア・パルム賞なのかと思うと私は腑に落ちない…。
それを中心に描いて、その人物から外に向かって、という洋画に見られる描き方とは違って、周りの人の偏見や不理解が明言されず漂い、いくつかあるうちのひとつの要素と思えたから。
それを描いた映画、とは思わなかった。その要素はあったけれど。

田中裕子さんの序盤の演技が怖くて、もうエボシ御前のこと、見る目変わっちゃうよ🥹と思ってたけど見続けてたら落ち着けたので良かった…。

過去にも映画の傑作は数えきれないほどたくさんあり、今も尚素晴らしい作品が生み出され続けるけれど、最近は予想の想定内と言えば良いのか予測できるor期待したものと言った感じであったけれど、この作品は今でもまだこんな新しい衝撃があるのか、と驚いた。今までも名作を生み出してきた是枝監督ですが、まだまだこんな素晴らしい作品を作られるなんて、凄すぎる。
しかも、126分。信じられない。この濃密さでこの時間なんて。凄すぎる。短い。

現代の歪みを抜群の観察眼と筆力で浮かび上がらせた坂元さんも、自分の映画での表現力を理解し完成度高く仕上げた是枝さんも凄すぎる。衣装も小道具もすごい。エイジングとか、着回し加減とか。ロケハンもすごい。

映像や音や画角、映し出される全てのものに意図がありそれを浴びることができ、映像の世界に浸れて、極上の映画体験でした。

生きてたらいい。もうそれだけ。
Ginny

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