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怪物のmitzのレビュー・感想・評価

怪物(2023年製作の映画)
4.1
日本映画のドリームチームが集結し、坂本龍一氏にとって遺作となったことも重なり、今年最も「みぞみぞする」作品のひとつです。
物語は3部に構成され「親の目線」「学校(教員)の目線」「子供たちの目線」からそれぞれの世界の見え方の誤謬が描かれいます。また前半の大人パートではシリアスで緊張感のある展開から、後半の子供パートでは開放的でややファンタジーな世界観で表現されています。
子供のいじめを疑う親、子供たちの関係性を誤解する教師。目に見える情報から誤った理解をする大人たち。そして個人を犠牲にしてでも組織を守ることを優先する学校。また「普通の幸せ」や「男らしさ」などの旧態依然とした価値観が意図せずとも子供たちを苦しめている現実。
同時に心の成長の過程で自らの異変に気付いてしまい、大人たちが描く未来からはみ出してしまうことに背徳心を抱いてしまう子供たち。そういった「怪物」が「怪物」を生み出す負の連鎖をテーマとしながらも、美しい演出と映像美、また坂元祐二脚本特有のユーモア溢れる会話劇によって昇華させる稀有な作品です。
その中で唯一大人と子供の繋がりが生まれる校長と少年の場面。校長が語る「誰にでも手に入らないものは幸せではなくて、誰にでも手に入るものが幸せ」という言葉。そして2人が奏でる吹奏楽器の不安定な音色が雄大な野山で泣き叫ぶ「怪物」の咆哮のようでとても印象的でした。
是枝裕和監督作品らしく様々な局面に描かれない空白があり、それが行間となり作中多くの出来事の真実は明らかにならず、問いだけが残ります。特にビッグクランチから迎えるラストシーンは観る側に解釈が委ねられます。

「世界は、生まれ変われるか」

この一節から始まる脚本。それだけでこの作品に込められたメッセージが感じ取れる素晴らしい作品です。
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