mimitakoyaki

怪物のmimitakoyakiのレビュー・感想・評価

怪物(2023年製作の映画)
4.5
是枝監督の最新作ということで楽しみにしていて、二回鑑賞しました。

ある視点から見えることと見えないことを描き、悪気なく言った言葉、それがたとえ慰めの言葉であっても、時には誰かを深く傷つけてしまう無自覚の加害性など、誰にでも自分にも起きる事として突きつけられました。

言葉が届かない、聞かない、聞こえない、言えない時、隔たりができ、対話にならない心が通じない断絶がつらい。
言葉が通じなくて、お母さんも湊も先生も校長も、噂を立てる人も、見て見ぬ振りをする人も、嘘をつく人も、抑圧したり尊厳を踏み躙る人も…みんな誰かの怪物になり得る。
でも、それがほんとに身近な事として自分ごととして感じられるし、無意識の間に誰かを傷つけていたり、時には自分を守るために誰かを犠牲にしたり、その残酷さをすごく感じました。

しかし同時に、最低だと思ってた人が時には救いになったりもして、どこかでつながれる事だってあって、善人とか悪人とかそんな単純なものじゃなく、どの人物も多面的で複雑な内面に迫っていました。

あの時スルーしてた何気ないシーンや言葉が、受け取る人によってはナイフで刺されるような痛みがあって、自分にも問われているように思えて、そういう見せ方も巧みでした。

つらいシーンが多いですが、湊と依里の2人のシーンがほんとに瑞々しく、互いに唯一無二の大切な存在だというのが溢れてるし、特に依里にとって廃電車は自分の全てだっただろうし、湊も自分でもわからない言葉にならない感覚を覚えて戸惑い、アイデンティティが大きく揺らぎながらも、あの森で、電車で依里と過ごす時が最強で、そんな2人だけの自分でいられる世界が泣けるほど美しくて尊かったです。

あの子達がありのままの自分で良いと思えて、誰の目も気にせずに生きていける世界はいつ実現するのか、おりしもLGBT理解増進法が成立し、当事者の思いとはかけ離れた、カルトの思惑通りにマジョリティの安心などという内容が盛り込まれた分断を持ち込むようなやり口がまかり通ってしまうこのジャパンでは、なかなか希望が持てないと思います。
あの子達のこれからが、あのキラキラした光に満ち溢れた明るいものであって欲しい。
平和でひとりの人として尊重される未来があって欲しいです。

ところで、本作で安藤サクラの仕事がクリーニング屋の店員でしたが、確か「万引き家族」でもクリーニング工場で働いてたし、「ベイビー・ブローカー」でもソンガンホはクリーニング屋を営んでいました。
是枝作品でのクリーニング屋は、何か意図があるのかな…。
ちょっと気になるところです。

廃電車、森、廃線跡、トンネル、諏訪湖…
そんなロケーションもすごく印象的で良かったですし、坂本龍一の繊細な音楽も素晴らしかったです。
安藤サクラや田中裕子など役者陣ももちろん良くて、永山瑛太のなんとも言えないあの感じとか絶妙でした。
ほんとに上手い。
でも何と言っても湊と依里がほんとに素晴らしく心に残りました。

1回目: 2023.6.11
2回目: 2023.6.26

17、18
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