うりた

怪物のうりたのレビュー・感想・評価

怪物(2023年製作の映画)
4.1
小学校に通う子どもたちをめぐって起こる出来事を色々な人物の視点から描く、いわゆる芥川龍之介の『藪の中』のような構成。(映画で言えば『羅生門』『告白』『最後の決闘裁判』など)
大きくは、
①母親の視点
②先生の視点
③子供の視点
で分けられる。

各章しか見ていなければクズ認定してしまう最低な人物も、別の章を見てしまうとなんだか嫌いになれなくなってしまう。
この人だけは絶対に許せないと思っていた校長の「誰にでも手に入るのが幸せ」という言葉と、楽器のシーンが一番胸に刺さってしまうとは……そんなん、もう、無理だよ。
人と人とが理解し合うなんて絶対に無理なんだ、一人一人に監視カメラつけて、それでも心までは読み取れない。
「怪物」は「誰」ではなくて「何(現象)」なんじゃないか?じゃなきゃ校長先生を憎めなくなってしまったこの気持ちに説明がつかない。

…なんてことを考えてたら、是枝監督がインタビューでこんなこと言ってました。↓

どこにでも怪物はいるし、ふとした時に立ち現れてしまう。人と人とが理解し合おうとした時、共有しようとした時、またはそれを諦めた時に出てくるものだと思って捉えていました。

うわーーーーー的確すぎる…いや監督本人なんだから当たり前か?でもあまりにもこれは答えだ。
私は今作を見て、人と人との理解なんて無理だと諦めてしまった。けれど、後からこの回答を読んで、やっぱりそうはなりたくないなと思った。
人と人とが関わるだけでもう怪物は現れる。多少の傷は仕方ないかもしれない。それを受け入れた上で、「誰にでも手に入る幸せ」を模索していくべきなのだ。

脚本が素晴らしく、登場人物の何気ない些細な一言にもちゃんと怪物を潜ませているのがうまい。
ラストシーンはめちゃくちゃ好きだな。天気と感情のリンクが気持ちいい。
役者もみんな良かった…。とくに永山瑛太の演技はたまらなかった。

映画を観終わって外に出たら、まだ映画が続いているかのようなどしゃ降りで恐ろしくもあり、嬉しくもあった。
教授のサントラを聴きながら雨の中を帰りました。
うりた

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