このレビューはネタバレを含みます
所謂羅生門スタイルの三幕構成で３つの視点を経ることで作品の全体像が明らかになるとういタイプの映画。
所々それぞれの視点の間でうまく整合しないところや語られない謎みたいなものが意図的に残されているところ、また、繰り返される「怪物だーれだ」というフレーズや冒頭の放火を匂わせる火事のシーンで犯人探し的な見方を誘うような作りになっているところなど、ＳＮＳ時代の映画語りに適応した、いかにも”考察”してくれと言わんばかりの脚本は良くも悪くも現代的な感覚の映画である。
そうした考察受けしそうな部分からも何が真実かという方向に目が行きがちではあるが、この映画の特殊な構成の意図は何が真実かという部分よりも、他者の目から何が隠されているのか、なぜ隠されるのかということを観客に意識させることの方にあるのだと思う。
人が抱える悩みや苦しみというのは往々にして他人の目からはわからないものであり、アイデンティティに関わる問題は親しい人の目からも隠されていて深刻な悩みほど表には出てこない。そしてそうした語られない気持ちの背後にあるのは周囲の人間のさりげない言葉とか意識されない偏見だったりするということをこの映画は描いていて、例えば男の子らしく見たいなセリフはややあからさまに過ぎる所はあるが、日常に潜むささいな加害性を前景化しようとする姿勢には好感が持てる。
