109mania

怪物の109maniaのレビュー・感想・評価

怪物(2023年製作の映画)
5.0
 怪物とは自分の中にある猜疑心なのか。

 見終わった後の充実感は、他の映画を圧倒する。私は、よく泣いたとか、社会的メッセージを受け取ったとか、そんな感想をよく書いているが、この映画はそのうちのどれかには収まりきらず、色んな要素が混ざり合う。雑多なわけではない。それでも純度が落ちないところが、是枝監督のなせる業。

 予備知識があれば別だが、多くの人は安藤サクラが主人公となる最初のパートでは、彼女に寄り添うことになるだろう。彼女の正義に寄り添って、教育現場に潜む怪物をあぶりだす。そうか、そういう映画なのかと思ったところで主人公が入れ替わり教師目線、少年目線で描かれる別の正義を突きつけられる。悪と思っていた中に善を見出し、支えと思っていたその言葉に追い詰められることもあるのだと気づかされる。
 多様な価値観を受け入れることが賛美されるこの時代は、ともすると善を悪とみまがう危うさも潜む。心して自分の中の怪物を押さえ込む必要がありそうだ。
 
 役者たちにも触れておきたい。大好きな安藤サクラは言わずもがな、教師役の永山瑛太も、校長役の田中裕子もとても良かった。そして若き二人の才能達も素晴らしかった。終盤の二人のシーンはとても瑞々しく、エンディングは希望に満ちた青春を謳歌する、そんな映像に思えた。

 音楽も素晴らしかったです。

 
 
 
109mania

109mania