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怪物のABBAッキオのレビュー・感想・評価

怪物(2023年製作の映画)
4.0
 2023年是枝久和監督、坂元裕二脚本。シングルマザーとして小学生の息子を育てている安藤サクラ、小学校教師の瑛太、そして親密な関係になっていく小学生二人と自分たち夫婦の過失で孫の命を失ってしまった校長の田中裕子。3つの視点から大火事のあった日からの出来事を重ねていく羅生門手法の作品。坂元のコメント(見えているもので物事の解釈は全く変わる)やカンヌでの受賞(クィア)である程度内容の想像がついていたためにストーリーは完全な驚きではなかったが、激しさのある脚本と是枝の丁寧な撮影・演出で共感できる作品になっていた。子役の撮り方に定評のある是枝だが、本作も見事と思う。また、ある意味最も驚かされたのが坂本龍一の音楽で、ピアノ演奏の使い方がびっくりするほど効果的だった。
 昨年公開の片山監督の「さがす」も羅生門構造になっており、複数の視点から表現するのは今の時代の一つの傾向かもしれない。しかし芥川龍之介や黒澤明の時代には「真実」というのは比較的単純に信じられており、「真相が藪の中」というのはある種発見だったと思う。今日では視点の複数性は当たり前になってしまい、視点の重ね合わせから真実が浮かび上がることを期待しての手法のように思える。
 二人だけの秘密を共有する子どもたちだけでなく、登場人物は皆何かを恐れ、真実を口にすることができない。「怪物」はモンスターペアレントであり、暴力教師であり、すぐに逃げ去る恋人であり、無理解な親であり、嘘をつくことによってのみ生きていられる祖母であり、彼らを抑えつけている何ものかなのだろう。重苦しい雰囲気がラストで一挙に解放される。「生まれ変わったのかな?」「そんなことないよ、元のままだよ」というセリフの後に晴れ晴れと走る姿はむしろ反語であるのではないか。
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