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怪物のmegurosのネタバレレビュー・内容・結末

怪物(2023年製作の映画)
4.7

このレビューはネタバレを含みます

話は3部構成。まず、自身の子供が学校で先生から虐待を受けているのではないかと心配する母親の立場から。続くパートでは反転して新任教師の立場からモンスターペアレントの対応と教育委員会の顔色伺いが常態化している教職員の現場を描く。そして最後のパートでは、子供の視点から大人たちの価値観を眺める。

我々はいつしか分断され、互いが敵味方にしか見えなくなってしまった。自分とは異なる立場、価値観を有する他者はもはや怪物でしかない。教職員と母親のやり取りはどこか国会答弁を想起させるが、同じ国のことを考えている政治家にしても政党が異なれば敵同士なのだろう。それぞれに背景があり、そう考える正当な理由があるはずなのだが、もはや我々がつながる術は見えない。この映画で描くのはそうした絶望で、我々が生きている社会をそっくりそのまま映している。

3部の子供パートでは、この社会という怪物が子供たちを傷つけていること、”自分たちは普通ではない、きっと豚の脳が移植されている(=怪物)んだ”と彼らに思わせる構造が見えてくる。自宅のTVに流れる何気ない日本のバラエティー風景にしても、何気なく母親や先生が思いやるつもりで投げかける伝統的なクリシェにしても、そこに加害意識のカケラはない。湊と依里が当たり前に受け入れられる社会の素地は、まだこの国にはないのだ。

2人は柵のない世界で幸せにいるだろうか。自分には娘がいるが、彼女のセクシュアリティがどうあれ、ありのままに生きてもらいたいと思う。親として、昔からのクリシェに頼らず、その都度その都度の生きた言葉でコミュニケーションを取るべきだと強く感じた。

音楽は坂本龍一。R.I.P
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