みかんぼうや

怪物のみかんぼうやのレビュー・感想・評価

怪物(2023年製作の映画)
4.6
今年観た映画で間違いなく“最も余韻が残っている”映画。時間が経つにつれ、さらにその余韻が深まり評価が上がる。個人的には是枝監督の最高傑作。

多角的な視点で語られることは予告から既に分かっていたので、時系列的にもこのような構成になることも、テーマ的にこのような流れになることもだいたい想像はついていた。だから、正直なところ意外性は全くない。全くないのだが、そこに映し出される現代社会の息苦しさの縮図のような設定(ネタバレになるので敢えて具体的には書きませんが)とメッセージ性を、ただ重苦しく映し続けるのではなく、様々な視点から得られる情報をパズルのピースを埋め合わせていくような見せ方にすることで、ある種、純粋に“先を知りたい”と思わせる映画としてのエンタメ性にも徹底している。

ただし、エンタメ性が強すぎると、本作で描かれる社会問題のリアリズムが弱くなり、ヒューマンドラマとしてのメッセージ性に欠けてしまう。その点で、本作は物語の設定や展開を強引にまとめあげるのではなく、各視点から見える“事象”を一つひとつの細部にわたるまで巧妙に作り込み丁寧に描くことで、ヒューマンドラマとしてのメッセージ性に一定のリアリティを持たせながら、ピタッとパズルが完成するエンタメ的面白さの両軸のバランスを見事に保っていたところに、個人的にこの作品の凄さがあるように感じた。

結果として、話の展開における一段階目、二段階目の視点はひたすらに“思考”に訴えかけ考えさせられ、三段階目は“思考”に加え、思いっきり“感情”にも訴えかけてくる。その思考と感情の狭間で、客観性と主観性が交錯しながら進んでいく“本当の怪物”捜し。

「怪物だ~れだ?」・・・怪物はここにもいた。

徹底的に余韻を残すラスト。あのラストをどう捉えるかは、受け手側が考える“怪物の正体”次第なのかもしれない。
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