でぃーら

怪物のでぃーらのレビュー・感想・評価

怪物(2023年製作の映画)
3.6
面白かった。
クオリティ高かった。
けれど、変なモヤモヤも相当残り、結構好きじゃないかも…な作品。

母視点・先生視点の第一、二部と第三部で主題が異なる。
第一、二部は周囲の人間の中に存在する恐ろしさ=怪物。
第三部は自分の中に存在する得体のしれない感情=怪物。

語り手によって事実の見え方が180度変わる第一、二部。
ここまで展開自体は期待通り。
ただ、その「見え方」を作り出すための過剰なズレはどうなん?とも思ってしまう。
視点によって違うどころか、客観的にも大きく違くないですか?と。

真相は?ズレの違和感も解消されるのか?と前のめりになったところで、第三部で肩透かし。
真相自体は明かされるけれど…
主題は、少年必要以上に思い悩みがちだよね。を描いたキラキラストーリー…。
過剰なズレはそのまま。第三部へのフリのための演出で、それ以上でも以下でもなかったのねとガッカリ。
とは言え、第三部自体は最高。

怪物=サイコな絶対悪だと思っていたら、もっとピュアな虚像だった。
フレンチのコースが、いつのまにか会席料理になってた感。
その構成自体は、むしろ巧いとさえ思う。
だからこそ、第三部へのフリ重視ゆえのズレが狡くて嫌。
予告編がサスペンス/ミステリーを強く期待させるような煽り方だったことが、そう感じさせる一因かも。

とは言え2時間画面に釘付けで、相当面白かったのは事実。

あと本編終了直後、エンドロールの前に「坂本龍一さんのご冥福をお祈りします」はタイミングが違くないでしょうか?
偉大な故人へのリスペクトは必要だけれど、作品の余韻に水を差さない形で示すべき。
作品の締めというか後味がそれになってしまい、それもモヤモヤ…。

あの時間、ラストシーンの解釈とか、語られなかった余白について思考を巡らせることで、鑑賞者と映画との関係をより深いものにすることが、本作における故人の素晴らしい仕事へのリスペクトでは?