寝木裕和

怪物の寝木裕和のレビュー・感想・評価

怪物(2023年製作の映画)
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きちんと時流の問題をその時に適した観せ方で紡ぐという計算高さを持ち、なおかつ芸術性としても優れている。

… その二つがなんとも絶妙なバランスで成り立っている。

是枝監督はこの作品は性的マイノリティに特化しているわけではないと公言しているし、配給会社にしてもその辺りを醸した宣伝などはしていない。

ただ、今現在の問題としてLGBTQ に関する要素を入れるべきだという「狙い」は絶対にあったはずで。

これまでも是枝監督はたびたび、その時々に注目されている問題を作品の中に織り交ぜてきた。
けれども例えば『万引き家族』などはいろんな種類の問題を詰め込みすぎているきらいもあった。
今回の『怪物』に関しては、そのあたりに考え抜かれたスマートさがあるように思う


そして物語の観せ方も『現代』的な巧さが光る。
伏線の回収の仕方、また回収せずに観てる側に委ねるやり方も。

いわば、テレビ的な物語の運び方の用意周到さと、芸術性の高さが、なんとも巧みなバランスで成立している。

これが、脚本家の坂元裕二のマジックなのだろう。

ラストの、少年二人… 湊と依里が晴れ渡る空の下をかけていくのは、どういう意味なのか。
それは前述した、観てる側に委ねる部分ではあるのだけれど、私にとってはその空のように晴れやかな希望を感じさせるものだった。
寝木裕和

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