シシオリシンシ

怪物のシシオリシンシのネタバレレビュー・内容・結末

怪物(2023年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

私が邦画において面白さに信頼の置ける監督の一人、是枝監督の最新作。
人間ドラマとミステリーと少年の瑞々しさと危うさが漂うドラマとを高水準の構成でまとめあげ、密度がギュッと詰まった噛み応えのある秀作になっていた。

ストーリー構成が、①母親視点、②先生視点、③子供視点、と三回時系列をさかのぼりそれぞれの視点からのドラマが補いあうことで映画が完成するといった構成になっている。
母親視点ではムカつく悪役にしか見えなかった先生が、彼の視点では同情すべき被害者に見えてきたり、先生視点では自分を陥れようとしているように見えた子供が、子供視点ではそんなことはなかったり。視点の異なるドラマが重なることで全容が見えてくる構成は物語を追うごとに見応えという名の多幸感を観客に誘発してくる。
『桐島、部活やめるってよ』や『さがす』といった作品と近似する構成になっているので、これらの作品が好きな人には間違いなく刺さる映画だろう。

この映画においての一番の見所はやはり③子供視点での湊と依里のドラマだろう。二人の少年の瑞々しく尊い心の機微と耽美さを漂わせる不安定な関係性を見事に演技で表現していた。
是枝監督は子役を撮ることに秀でた監督であるが、本作では友情と愛の狭間にある少年の心の動きが描かれており、是枝演出の新たな一面を垣間見られた。

あとは何と言ってもラストシーンが美しい。
晴れ渡る草むらをしがらみから放たれたような無邪気な声を上げて駆け回る湊と依里。選ばれた誰かだけが幸せになれる場所ではない、誰もが幸せになれる場所に二人の少年は行ったのだ。
果たして湊と依里はどこにいるのか。二人は生きているのか、それとも死後の世界にいるのか。(依里が「生まれ変わったのかな?」と言うのへ湊が「そんなんじゃないよ」と言っていたのが読み解くヒント?)
本来なら自分なりの答えを考察すべきなのだろうが、私とっては答えなどどうでも良い。
幸せの地にいる二人の少年が新天地へ向かう線路へ足を踏み入れようと駆け出した。
その光景が見られただけで私は満足なのだ。
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