なつ子

怪物のなつ子のネタバレレビュー・内容・結末

怪物(2023年製作の映画)
4.7

このレビューはネタバレを含みます



投稿するのに1週間くらい経ってしまった。

まず自分ではチョイスしない映画だった。
鑑賞中終始連れに誘ってくれてありがとうの気持ちでいっぱいだった。普段観るタイプの作品じゃないから、衝撃がすごかった。

まず、2.30分毎に展開が変わるので、今この瞬間に感じた事を書き出したいと思いながら見ていた。今抱いたこの感情が30分後真逆になっている。
観終わったら最後に残った気持ちが映画の後味になってしまうから、これがもし順序が入れ替わったら別物になるなと作品の構成にも感動した。

家族愛、特に母親とその愛に苦手意識があるので、序盤はただただ苦しかった。そして湊くんはいじめられているのか?とか、最後母が取り乱し、外から聞こえる男性の声に2階から飛び降りたのかと思った。床に散らばる手描きのイラストも、物悲しさを助長させていた。

保利先生やその他先生たちに対する印象も、後半には逆転する。
先生の視点になった時、この作品において1番悲しい思いをしているのが彼だと思い、見ていて苦しかった。
凝縮された地獄、これが現実って感じだった。
ただ、学校の屋根を歩くのは普通生きていたら味わえない経験なので、なんだか羨ましかった。
やってないことは謝れない。そうだよね。

校長先生が吐いた嘘とは何か。やはり孫を轢いたのは彼女なのだろうなと匂わせ氾濫する川の側に立たせることで、あの日校長もあの雨の中罪を清算したのかなと思った。
どうとも取れる匂わせがあちこちにあるのに、それが不自然でなかった。

一緒に観に行ったのが先生をやってる人だったので彼が気分を害していないか?と時々心配したが、楽しんでいたようだった。
別れ際にまた連絡するねって言われてお前〜って感じだった。

ラスト、電車が出発し、少年たちは亡くなったのだと思った。
ここから先は行けないと言っていたフェンスが無かったこと、母と先生が探しに来たはずなのに出会っていないこと。
あの仄暗い列車の中で2人だけの宇宙で現実から離れたのだと思うと、あまりに眩しく美しくて目眩がした。
前述した床に散らばるイラストも、2人の楽しかった世界の一部だった。

泥を被った電車の窓をかき分けるシーンで、内側からそれを映す描写がかなり好きだった。泥の上に溢れた雨が内側から見ると星空のようで美しかった。伝わるかな?

終始小説的な表現を感じ続けていた。
年端も行かぬ少年たちの美しい感情表現のおこぼれに預かっているようだった。
時折り裏返ったように掠れた声と、心と体のちぐはぐさに戸惑う姿が良かった。
あまりにも演技が上手すぎる。

マンホールを覗き込む星川くんの狂人ムーブと、湊くんが片方靴を貸してあげたりする姿に涙が出そうだった。
みんな一部しか見えないし大切なものとか気持ちとかってどんなに近い人でも共有出来ないことあるよね。

前半、母の愛に耐えられなくて苦しかったけど、もう一度観たいと思える作品だった。
これを観ていて人獣細工を思い出したので、読みたいと思う。
なつ子

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