ぱんだまん

怪物のぱんだまんのネタバレレビュー・内容・結末

怪物(2023年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

湊と依里ほど若いマイノリティを軸においた作品は、邦画だと珍しいんじゃないだろうか


胸を抉られるようなシーンが心に残る

2人が、2人だけの廃列車で怪物ゲームをしている。依里が「君は敵に襲われると、体中の力を全部抜いて諦めます。痛みを感じないように。」とヒントを出すと、湊が「僕は星川依里くんですか?」と返す。それに対して依里が小さく笑う。

依里がこれまでどれほどの傷を負ってきたか、想像もできない。家では父に「豚の脳」が入っていると罵られ、物理的にも虐待を受ける。学校では「女みたい」といじめられる。そんな依里を救いたいと思う湊もまた、自身のアイデンティティに苛まれる。母が言った「普通の家庭を築いて、幸せになってほしい」という呪縛に囚われ、"普通"ではない自分の気持ちに素直になれず、学校では依里を突っぱねる。そんな湊の切なさやもどかしさも刺さる。

映画のラストで、湊と依里は台風の日にもかかわらず2人だけのユートピアである廃列車へ向かう。
そこが2人だけの世界だから


最後、2人は死んでしまったのかな
台風がひどく雨を降らしているのに、2人の世界は穏やかに晴れ、何故か消えた柵の向こう側へと走っていく。

2人だけの幸せな世界に行けたのなら良かったと
楽観して映画を観終わる。

そんな馬鹿げた感想はない

作中では誰一人として2人の想いを肯定してくれる人はいない。
湊を一番に考える母は、湊に"普通"を強いる。
2人の機微に敏感だった保利先生でさえ、「男らしさ」を口にする。
彼ら2人を救い守ってくれる存在も環境も、あの世界にはこれっぽっちも無かった。"普通"でなければ、みんなと同じでなければ、彼らがありのまま生きる道はないのか。そんなやるせなさを感じた。

ただ、むしろその展開の方がリアルであるとも感じる。作中の2人が楽天的に幸せになれるような世の中ではないことはたしかだから。2人にとって希望のない世界。未来もない。幼い命が散っていく。惨たらしい現実。


身を切られるような思いで鑑賞を終えました
ぱんだまん

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