みかみ

怪物のみかみのレビュー・感想・評価

怪物(2023年製作の映画)
4.8
脚本と構成が素晴らしい。
本棚みたいな映画だった。ワンシーンずつ取り出して読めるような作品。2時間にこれだけのテーマを詰め込んで散らからずに成立し、人の心を動かせるこの映画はすごい。

登場人物全員に何かを守ろうとする美しさがあり、また紙一重でそれが他人からは醜く映ってしまうことある。それが上手に描かれていて感心した。

役者に対して何も思うことがなくそこに登場人物がいただけだったので、役者の皆さんは本当に素晴らしかった。

最初のパラグラフで描かれている堀先生のキャラクターが後半との整合性が取れなくて少し納得がいかなかった。ミスリードのためにやり過ぎている気がした。

ラストシーンの現実世界とは対照的な晴天と線路への柵のない描写が、解放された2人の気持ちとそこが現実ではないことの隠喩となっていて、鮮烈な表現に感銘を受けつつ、物語のラストとして涙した。

ビジュアルも極めてツボ。乾涸びたバスも廃線路もトンネルも最高だった。子供たちと公園の遊具と諏訪湖のビジュアルも印象に残っている。

サウンドデザインは、なんと言っても「怪物の鳴き声」に聴こえるあの音。
最初に出てくる時にカットごとにわざわざパンが振られていて、「映画の音楽」ではなく物語の中で鳴っている音であることが仄めかされていて、2回目に出てくるときにはその音が登場人物に影響を与えている様が描かれて何の音だろうかという疑問が深まる。3回目でその音の正体と込められている想いが明かされる。鳴き声じゃなくてむしろ泣き声だったんだと気がつく。すごい表現だし、素晴らしいサウンドデザインだった。

2023 No.
みかみ

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