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怪物のtaromanのレビュー・感想・評価

怪物(2023年製作の映画)
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タイトルが観客を引き込む。しかしその先は。「怪物」

・初の是枝作品。坂元裕二の脚本とも相まって、観た後のいっぱいいっぱいな気持ちがもどかしかった。ああ、柵は取れたんだ。もう行き止まりじゃない。
・最初は「怪物ってなんだ?」「『かいぶつだーれだ』ってどういう意味?」とあまりにも即物的というか安直というかな考え方をしていたのだが、自分の愚かさを知る。
・田中裕子演じる校長先生の音楽室でのセリフ。あれは、校長先生が大きな嘘をついた生徒にただ言った「セリフ」ではなく、田中裕子自身の言葉として子どもに語られたのではないかなあ、とさえ感じる。ああ、ああ、そうだな。幸せとは。

・坂本龍一による日付を曲名とする12曲を集めたアルバムから2曲。その他過去作品からも選ばれていた。坂本龍一の自然を聴く耳、見る目、感じる心は本当に得難いものだと思うので、子どもたちの世界がその音で飾られたのは、この上ない心地よさを感じた。

・「連ドラの坂元」らしい三章構成で、こちらが何かに気付かされたように見え方がどんどん変わっていく。しかし、登場人物はただずっとそこの筋を通っていたのかもしれない。私たちは何に惑わされて、何を信じているか。私が私自身の「怪物」の発露を感じたと、なんとなく思った。

・安藤サクラ、みなとの母。最初はその視点から始まる。母一人子一人、子どもはだんだんと思春期になってきたのか、あまりコミュニケーションがうまく行かない。そんな中で母は息子の些細な異変を感じ取る。その先には問題のある学校の先生が浮かび上がる…そして、先生は「退治」される。
・永山瑛太、みなとの担任の先生。なんとも言えないコイビトを持つ、ごく普通の、子どもが好きな新任小学校教員。たくさんの参考書、教科書、本。さぞ優秀で、夢を持って教師になったのかもしれない。子どものため、学校のため、最終的にはクビになり、週刊誌で滅多刺し。しかし本当に子どもと「対峙」したかった、ピュアな人だったかもしれない…

・田中裕子、強烈かつ鮮烈。私の目にまだあの顔が貼り付いている。私の言葉で語るには畏れ多い。

・柊木さんと黒木さん、君たちは何者なのか。本物の子どもに演じさせるのは非常に酷だなどと思う一方、この天才たちを生み出してしまった作品は本当に有難い。規範に抗い、枠に抗い、腹から出る声と全身を使うパワーを忘れないでほしい。子どもたちの世界を、演じてくれてありがとう。
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