水

怪物の水のネタバレレビュー・内容・結末

怪物(2023年製作の映画)
4.8

このレビューはネタバレを含みます

母親、担任、子供達の順で、三つの視点から少しずつ全容が見えてくるという三部構成が、これでもかと言うほど完璧に完成させられていた。
母親だろうと、担任だろうと、理解しきれないアンダーグラウンドな子供社会を表現するのにこれほど適した撮り方はないだろう。
事象は、感受力の性質や強度によって、いくらでも反転する。世界は絶対的なものではないのだ。
「普通に」や「男らしく」と言ったありふれた言葉は、受け手によって悪口になり得る。
日常に潜むちくちく言葉に気づかないまま傷つけられたり、傷つけてたりしてしまう。
人が多様であれば、多様であるほどにそれは避けられない。

2人だけの世界だと感嘆させられる映像の数々に、誰も入り込むな、見ている私さえいなくなれと思わされる。トンネル奥の廃棄列車なんて、あまりにもじゃないか。存在しないノスタルジーが疼く。

「生まれ変わったのかな」
「そう言うのはないと思うよ」
「そっか、よかった」
これからも、生まれ変わらなくてもよかったと言える世界でありますようにと、祈るような日差しが2人の背中を押していく。
変わらないままの2人を洗っていく。
世界もまた何も変わらず、それでもさっきよりは晴れている。
得体の知れない何かに恐れながらも、2人は怪物のまま手を取り合うことができるのだ。

素晴らしい映像と音楽で丸め込んだというのもわかる気がするけど、それでもいいやが今の時点では正しい歩みな気がする。

校長先生も「誰かにしか手に入らないものを幸せって言わない。誰にでも手に入るものを幸せって言うの。」と言っていたし、2人とその他の人間に与えられた幸せは等しい価値でなくてはならない。

結局、怪物とは誰のことなのか。この映画では、全員怪物で、全員怪物じゃないという解釈が1番しっくりくる。同性愛者は怪物じゃないかもしれないし、不条理を甘受する大人たちの方が怪物なのかも知れない。それは生きる世界によって変わっていく。
水