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怪物のvenom9のレビュー・感想・評価

怪物(2023年製作の映画)
3.5
ある一連の出来事を登場人物毎に視点を変えて描くコンセプトは面白いです。人は見たいもの信じたいものを見て信じるから、真実は一様ではないとも思います。ただ、それを描く必要性から主要登場人物の言動がやや突飛になりすぎてはいないか、と思います。言い換えると、人物の作り込みが雑に感じるのです。
我が子のことで必死とはいえ、校長室における麦野早織(演:安藤サクラ)の行動は堂々たるモンスターペアレントです。特段粗野な人物でもないのに学校でだけ物を投げつけたり乱暴な言葉遣いをします。
担任の保利教諭はまさに貰い事故状態で可哀想ですが、早織視点の第一パートでは感じ悪い教員にしか見えません。また、子供とはいえ湊が様々都合の悪いことを嫌いでもない保利教諭のせいにするのも、異様です。嫌いな教師や同級生を陥れるならまだしも。
最も問題なのは、3つの視点を描き挙句明るみになるのが麦野湊と星川依里の関係だというオチの付けかたです。カンヌでクイア・パルムを獲っているので最早ネタバレといえないと思いますが、本作がクィア映画としていかがなものかと申したいのではありません。先述のいわゆる「羅生門」型の「三人称一元視点」構造と、見えてくる湊と依里の真実とが、あまり噛み合っていないように感じます。
本作はプロデューサーの川村元気によるコンセプトのもと坂元裕二によりプロットがほぼ仕上がった後で、是枝裕和が監督起用されたようです。是枝氏のブランド力も相まって話題作りでは奏功していますが、作品の出来においては疑問です。
いろいろ批判めいた事ばかり書いて恐縮ですが、一方で本作は大事な教訓を提示しています。早織は湊になにげなく「普通に結婚して子供を作って」と言い、保利教諭は口癖のように「男らしさ」を語ります。これら何気ない発言が他人を傷つけるかもしれない、ということですね。想像力が試されます。
あと、本作は学校教育の現場の惨状やそれぞれの個性を押し殺さねばやっていけないこの国の酷薄な状況を見せ、これがあなたたちの姿ですよと突きつけられている感覚もあります。
いまだにモヤモヤが続いていて、消化しきれずにいます。これもまた、本作作り手の罠に嵌っていると言う事なのでしょうか。
(2024年4月 U-NEXTで鑑賞)
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